あれから何週間か過ぎて、私は仕事帰りにパチンコに寄っていた。
ショウには前もって連絡を入れてあるから問題ない。
残業があってすぐには帰れないと伝えてあるから、大丈夫。
私は千円札を何枚も入れて、打ち続けていく。
それでも、一向に当たる兆しなんか見えなくて、イライラしてきた。
いつも勝てるって言うのに、どうして今日は勝てないわけ?
それとも何、いつも勝っているから勝たせないようにしているわけ?
どっちにしろムカつくことに変わりはない。
そして、あっという間に1万円を使ってしまった。
それなのに、当たりが出ないなんて・・・この台馬鹿じゃないの?!
―ドンッ!!
私がパチンコ台を叩いても、その大きな音はパチンコのガヤガヤ音で消されてしまう。
今日はたまたまツイていなかっただけなんだから。
明日になれば勝てるに決まってる。
でも、まだ今日が終わったわけじゃない。
「あの、ちょっと10万円借入したいんですけど」
私は消費者金融に連絡を入れて、融資してほしいとお願いをした。
そう、これが初めての借金。
ギャンブルをするには、それなりのお金がかかるんだ。
もう、私の給料だけじゃ足りない。
だから、消費者金融に連絡をして、融資をしてもらいたい。
審査には通れる自信があった。
収入だってちゃんとあるし、他社からの借入をしていないから。
金融事故者ではないからブラックリストにも登録されていないし。
私の予想通り、何の問題もなく私は審査に通ることが出来た。
すぐ近くのATMから下ろせるようになっているから、すぐさまそのATMへと向かっていく。
言われた通り、入力をしていくとすでに10万円が振り込まれていた。
「さすが、即日融資!」
そう言って、10万円全てをバッグの中へとしまい込んでいく。
これで、またパチンコが出来る!
私はそのお金で早速、違うパチンコ店で再びパチンコをやり始める。
何だか当たりが出そうな気がして、ますます夢中になっていく。
普通の人には分からないだろうなー・・・、この勝てそうな感じっていうのは。
ギャンブルをやっている人にしか、きっと分かってもらえないだろう。
これは大当たりを出したことのある人にしか分からないことだもん。
「当たって、当たって!
今日だって私の勝ちなんだから!」
そう言って盛り上げて当たりを出そうとするが、なかなか出てこない。
そんな気配も無くて、私は再び台を思い切り叩いた。
どうして当たりが出てくれないんだろう。
私が一体何をしたっていうの?
勝たせてくれたっていいじゃない!
そう思っていても、全く当たる気配なんかない。
その後、何度か打ち続けたが結局当たりなんか出てくれなくて、負けてしまった。
大きなため息をつきながら、私はパチンコ店を出た。
はぁ・・・何か運が悪いみたいで嫌だな・・・。
そのまま家へ向かう。
家に帰ると、ショウが夕食の準備をして待ってくれていた。
「おかえり、このみ」
「ただいま・・・」
「すごく疲れているみたいだけど、大丈夫か?」
「うん、大したことないから大丈夫」
そう、この疲れは仕事のものじゃないから。
この疲れは、全てパチンコで負けたものだから気にしなくても大丈夫。
ただ、こうして毎回ショウが準備して待ってくれているのが、少々心苦しい。
準備をしてくれているのに、私はいつまでもパチンコばかりして。
自分でも本当はわかっているんだ。
いつかはギャンブルをやめなきゃいけないんだって。
でも、それが出来ないから困っているんだ。
口で言うのはいつだって簡単だけど、実際行動を起こすとなると難しい。
何かきっかけがあれば変われると思うんだけど・・・この考えは甘いかもしれない。
それに、ショウもたまに帰りがすごく遅い時がある。
それが私的に気になってはいるけど、怖くて聞けない。
だって、私はショウと別れたくないから。
内心、浮気をしているんじゃないかって不安で仕方がない。
「このみ、残業している割には給料少なくないか?」
「そんなことないよ、もともとそんなもんだから」
実はもらっている給料の中から、ギャンブル代を調達しているから少ないんだ。
でもね、私にしては抑えている方なんだよ、これでも。
まぁ、とうとう消費者金融に手を出してしまったけど、返済なんかいつでもできるから心配ない。
まだたった10万しか借りてないし、今の所ならまったく大丈夫。
「ショウもたまにすごく帰り遅くて朝とかじゃん。
仕事の接待ってそんなにかかるものなの?」
「ああ、相手にもよるけどなかなか帰れないものだよ」
そう言っているけど、実際はどうなんだろう。
怖くてその先が聞けない自分が、もどかしく意気地がないと思う。
でも、ショウからしたら私もきっと疑われているんだろうな・・・。
ギャンブルしている事、絶対に知られたくない。
それから、私は何度も消費者金融を利用して、借金が溜まっていってしまった。
全てパチンコと競馬に使って、私が抱える借金はあっという間に50万円を超えてしまって、先日収入証明書の提出をしてきたところ。
消費者金融は、総量規制っていうものがあって自分の年収の3分の1以上、お金を借りる事が出来ないみたい。
それって、すごくめんどくさいことだと思うんだよね。
銀行はその規制がないみたいなんだけど、審査が厳しいって言われているから申し込みたくないし・・・。
もし、消費者金融が使えなくなったら銀行にしよっかな?
「このみ、これ頼んでもいい?」
「ん?いーよ」
私はそう言って、友人のサツキから書類を受け取った。
サツキは私がギャンブルをやっていることを知らない。
言ったら友達でいることをやめられてしまいそうで、ずっと隠し続けている。
サツキとはこの会社で出会って仲良くなり、よくお互いの彼氏について話したりもしている。
本当に仲が良くて、いつも一緒に過ごしている。
お昼も外で一緒に食べているし、本当に大切な友達なんだ。
コピーを取り、それを営業の男性に配っていく。
その男性のデスクには、競馬の本が置かれていた。
「競馬お好きなんですか?」
「ああ、暇さえあれば競馬中継聞いてるよ。
まぁ、実際に金賭けてやってないがな」
そうなんだ、お金を賭けないでただ聞いてるだけなんてつまらなくないのかな?
私はつまらないからお金を賭けているわけなんだけど。
競馬は勝ったらすごい大金が手に入るから、夢のようなものなんだよね。
簡単に言ったら、宝くじと似たようなものっていうか。
そもそも会社に競馬が好きな人がいるなんて、思っていなかったから少し驚いた。
会社の人に競馬が好きなのか?と聞かれて、私は思わずごまかしてしまった。
私がギャンブル好きっていう事は、誰にも知られちゃいけないから。
仕事が終わって、私は早速パチンコ屋へと向かった。
今日は朝からツイているような気がして、早く仕事が終わらないかずっと待ち遠しかった。
分かるかな、今日は勝てそうな気がするっていうこのうずうずした感じ。
同じギャンブル好きの人なら、きっと理解してくれると思う。
これが私の唯一の楽しみだから、誰にも邪魔されたくないな。
そう思った時、私の携帯電話が鳴って確認するとショウからだった。
あれ、残業してるってメールしたのに何だろう?
私はその着信を無視して、パチンコを打ち続けていく。
残業しているはずの人間が、外で電話するなんておかしいからね。
家に帰ったらきっと話してくれるだろうから、いいか。
でも、そう思っていた私は本当に馬鹿だったのだとのちに知ることになる。
自宅へ帰り、リビングへ向かうとショウが怒りを露わにしていた。
え、一体何で怒っているのか分からない。
「おい、消費者金融で60万円借金してるってどういうことだ!
俺は何も聞いてないし、何に使ったんだよ?!」
「そ、それは・・・」
「もう、別れよう。
借金している奴とは付き合いたくない」
「待って、ちゃんと話すからっ!!」
そう言っても、ショウは聞きたくないと言って荷物をまとめて家を出て行ってしまった。
私はその場で脱力して、泣くことしかできなかった。
知ってる、本当は私が悪いんだって・・・でも簡単にはやめられないんだよ。
やめられるんだったら、もっと昔にやめてる。
ショウが出て行ってしまい、部屋には私一人きり。
今まで一緒に過ごす時間が長すぎて、急な寂しさに襲われる。
確かに隠していたことは悪かったかもしれない。
だけど・・・話くらい聞いてくれたっていいじゃない・・・!
借金をしているだけで別れるって・・・・。
「どうしよ・・・っ」
今後、私はどうすればいいの?
ギャンブルをやめるにしても、一人じゃ絶対にやめられないと思う。
私の意志は弱いから・・・かといってこのままじゃダメになっていく。
わたし・・・どうすればいいの・・・?