店がなくなってから、青野が酷く驚いていた。
わざわざ俺の携帯に電話をかけてきたくらい。
どうして店がなくなってしまったのか、しつこく聞かれて俺は自分の体調のせいにした。
店の金をギャンブルにつぎ込んだと知られれば、何を言われるのか目に見えている。
責められるのは嫌だし面倒だから、体調がすぐれないという事にした。
ギャンブルだとしつこく責められるが、体調のせいだったら何も言えないだろうから。
今まで青野に嘘をついて誤魔化したことがあったが、幾度となくばれている。
どうしてばれてしまっているのか分からないが、本当に鋭いんだよな・・・。
女の勘っていうのか?
「よう、神宮寺!
待たせたか?」
「いや、待っていないから大丈夫だ」
実は今日、藤崎と会う約束をしていた。
藤崎から誘われて、俺も仕事を失ったわけだし時間を持て余している。
繁華街で待ち合わせすることになって来てみたが、特に変わったところはない。
先日話していた大金が手に入るという場所に案内してくれるようだが、どこを見てもそのような場所が見当たらない。
もしかして、人目につかない場所にあるのか?
だとしたら、簡単に見つかるはずがない。
「それで、例の場所はどこなんだ?」
「そう焦るなって。
その店は人目にはつかない場所にあるんだよ。
ほら、ついて来いって」
やはり人目にはつかない場所にあるらしい。
つまりそれは、合法ではなくて行なってはいけない違法なものかもしれない。
だが、そちらの方がギャンブルらしくていいと思う。
うまくいけば大金が手に入るわけだしな。
一体どんな場所なのか気になる。
裏通りをただひたすらに歩いていき、やがてある雑居ビルの前に辿り着いた。
このビル・・・すごく古いけど大丈夫なのか?
入り口から入り、正面のエレベーターを通り過ぎ角を曲がってさらに奥へと進んでいく。
「あのエレベーターじゃないのか?」
「いや、あれは上に行くやつだ。
俺たちが乗るのは、地下へ行く方のエレベーターだよ。
ほら、こっち」
俺は藤崎に言われるがまま、エレベーターに乗る。
向こうは上に行くエレベーターで、こっちが地下へ行くエレベーター。
使い分けているのは、やはり警察などの目を欺くためだろうか?
地下へと下って行くエレベーター。
音が鳴って降りてみると、そこはゲートが設けられていた。
何やら金属探知機で厳重に調べている。
俺は携帯電話だけを取り出し、検査を受けた。
もちろん、それは藤崎も同じ。
二人して検査を無事通過して、中へと入り込んでいくと・・・・。
「なんだ・・・この場所は・・」
そこはとても華やかな世界で、カジノやパチンコ台が多く置かれていた。
まるでアメリカのラスベガスみたいな感じになっている。
何だかワクワクしてきてしまう。
柄が悪そうな連中も多いが、きれいな格好をしている女性たちもまた多い。
何かのパーティーのように、みんな楽しそうにしている。
俺は普通の服装で来てしまったが、良かったのだろうか?
もう少しまともな服装の方が良かったんじゃないかって思うんだが・・・。
しかし、藤崎は怯まずそのまま階段を下りていく。
俺も後をしっかりついていく。
「ここは裏カジノで、違法な賭け金でみんなギャンブルをしているんだ。
だからうまくいけば、大金が手に入るっていうわけさ!」
なるほど・・・違法な賭け金でギャンブルをしているから、その分大金を手に入れやすいのか。
これだったら俺でも大金を手に入れられるかもしれないな。
それにしても、この雰囲気いいよな・・・。
ギャンブル好きにとっては、すごく嬉しいし楽しい場所だ。
子供が遊園地を好きなのと同じくらい。
俺と藤崎は、早速カジノの中でも人気のあるルーレットを覗きに行った。
ルーレットはシンプルだから、初心者でも手を出しやすい。
赤か黒か、そして番号を選び賭け金を置くだけだから、単純明快。
倍率も高いから、勝った時の金額もまたデカい。
しかし、まだ誰も当てていないようだ。
色だけで稼ぐのもアリだが、ギャンブラーとしてはやはりすべてを揃えて勝ちたい。
勝ちだけにこだわるのではなくて、勝ち方にまでこだわるのがギャンブラーだ。
「俺たちも早速参加しようぜ!
神宮寺、お前何から始める?」
「俺はやっぱり、ルーレットにするよ。
藤崎はどうするんだ?」
「俺は、とりあえずパチンコスロットからだな!
その後は、俺もルーレット行くよ」
「じゃあ、2時間後またここで落ち合おう」
そう約束をして、俺たちはひとまず分かれることにした。
早速ルーレットに向かったわけだが、人の集まりがすごい。
俺も負けじと輪の中へと入る。
個人差があるが、みんな割と賭け金が低い。
すごい賭けをしている奴もいるが、みんな慎重に賭けている様子。
俺もさっと赤の9番に3万円分のコインを置いた。
周囲の連中も賭け金をそれぞれ置いて、ディーラーがルーレットを回し中に玉を放り投げ転がした。
今までの結果を参考にしてみると、赤が多く出ている。
だから俺も赤を選んだし、番号が奇数ばかり出ているのも気になって9番にした。
どうか勝ちますように・・・!
「赤の36来い!赤の36―!!」
「いや、黒の28番だ!!」
皆して自分の賭けた番号を叫んでいる。
ただ、黒は今日もう出ないんじゃないかと思う。
今までの結果、赤ばかり出ているから赤しか出ないんじゃないかと思うんだよな。
もしかしたら、黒も出る可能性があるけれど・・・。
そんな俺たちの気も知らずに、玉はルーレット上を軽やかに転がり続けている。
まだ止まる気配がない。
皆してじっと転がる玉を見つめている。
玉はまだ軽やかにルーレット上を転がり走っている状態。
徐々に転がるスピードが落ちてきて、いよいよ止まりそうになった。
俺も食い入るかのように見つめる。
そして、とうとう転がっていた玉が止まった。
「赤の8番です!!
赤の8ーッ!!」
「嘘だろ・・・?!」
俺が選んだ番号に近い!
俺の番号はやっぱりいい線をいっていたようだ。
色もやっぱり赤だったし、読みは当たっていたが、運が無いのかもしれない。
何だこのきわどい感じは。
予想が近かったと言うのに、全く嬉しくない。
勝てると思って全額つぎ込んだと言うのに・・・!
くそっ!
もう一回やってやるしかないな!
そう思い自分の財布の中身を確認してみると、小銭しか入っていなかった。
このままでは、ギャンブルが出来ないじゃないか!
俺は少しずつ苛立ってきてしまった。
まるで薬物の禁断症状を起こしているみたいになってしまっている。
その瞬間、俺の脳裏に消費者金融が浮かんだ。
しかし、総量規制の影響もあって恐らく俺はもう借入が出来ないんじゃないかと思う。
だとしたら、総量規制の対象外になっている銀行に頼ってみるしかないか。
銀行でも即日審査や融資をしてくれると聞いたことがある。
俺はすぐに電話をして申し込みをした。
「もしもし、カードローンの申し込みがしたいのですが」
そう言って話を進めていくと、あっという間に審査してもらうことが出来た。
運転免許証を写真で送って、数十分後には審査に通りました、という結果メールが送られてきた。
早速俺は融資してもらうための申し込みをして、カジノの近くにあるコンビニATMから金を引き出してきて、再びカジノへ戻りルーレットにのめり込んだ。
次こそは絶対に勝ってやるんだ。
運が少しないだけで、いい線はいっている。
だから諦めずに続けることが大事なんだ。
「今度こそ来い!赤の14番―っ!!」
俺はそう叫びながら、ルーレット上を転がり走っている玉を見つめる。
周囲も再び食いつくように見ている。
あまりの熱気に倒れそうになるが、そんなことで負けている様じゃ、この賭けには勝てない。
転がり走っている玉が失速し始めて止まった先は・・・黒の28番だった。
その結果を目の当たりにして、周囲の連中たちが怒り始めた。
それは俺も一緒だ。
悔しいし納得いかないから、もう一度賭けてやる!
後から藤崎が合流して、俺たちは一緒にルーレットへと夢中になる。
「神宮寺、こっちの方が楽しいだろ?」
「ああ、そうだな!」
パチンコや競馬なんてそんな小さいモノじゃなくて、こっちの方が賭け金もデカくていいかもしれない。
賭け金の大きい方が何かといいことが多いが、損した時も痛手になる。
それでも大金が手に入る可能性があるなら、俺はこっちのほうがいい。
だが、この時の俺はまだ何もわかっていなかったんだ・・・。