そして、あれから一週間後。
俺はフランス料理を極めるために、フランスへ降り立っていた。
もともとあの店もフランス料理を提供している店だった。
だが、あいつみたいに俺も成長しなければならないと思ったら。
だから、こうしてフランスの地までやってきた。
以前にも訪れているはずなのに、しばらく来ていなかったから違和感がある。
少し街並みが変わってしまっている。
そんな中、俺は研修させてもらう店まで歩いて向かった。
その店はあるホテルの中に入っていると言う。
「Comment est-ce que tu vas?
Il est endetté d’aujourd’hui.
(初めまして。本日からお世話になります)」
「Il attendait!
J’apprécierais ta faveur ici.
(お待ちしておりました。こちらこそ、宜しくお願いします)」
そう言って、店長が迎え入れてくれた。
思っていたよりも、いい人そうで安心した。
だが、フランス人は英語を話してくれないとうわさで聞いていたから、少々不安だ。
俺は少ししかフランス語を話すことが出来ないから。
英語でも通じると聞いたことがあるし、実際に英語を駆使してフランスへ行った人の書き込みを見たりもしたが、意地悪なフランス人も中に入るようだ。
また、その地域によっては英語が全く通じないこともあるとか。
そんなことも考えずに、フランスへ来てしまった。
俺は純粋にただ料理について学びたいだけだったから、そこまで考えることが出来なかった。
でも、通じているから今のところは問題ないか・・・?
「それにしても、食材とかすごいな・・・」
あまりの食材の多さに驚愕してしまった。
日本とは違う冷蔵庫だし、器具の数も豊富。
これは多くの事が学べそうだ。
研修期間はこれと言って決めてはいないが、最低でも3年は研修しようかと考えている。
大体他の人達がどのくらい研修しているものなのか、よくわからないが3年はきりがいいと思う。
1年だけでは少ないような気もするし、学べることも少ない。
2年はなんだかきりが悪いと感じて、3年にしてもらったんだ。
これから、一生懸命学んで腕をあげていかなければ。
――★《Change To Kotori Side》
とうとう神宮寺くんが海外修行へ行ってしまった。
何だか、風の如く素早い行動のような気がして、寂しがる暇もなかったように思える。
昔から神宮寺くんは、思い立ったらすぐに行動を起こすタイプだった。
きっと、自分の実力が劣り始めていることを知って、海外研修へ行くと決めたんだろう。
一緒にハンバーグを食べに行ったとき、ひどく驚愕した表情を見せていた。
恐らく、彼が上達している事を知って、自分はこのままでいいのかどうか考えたんだと思う。
神宮寺くんは向上心が強く、上を目指そうとする意志が強いから。
今回もまた彼が動き出してしまった。
お店を突然辞めると言いだしたから店長たちが驚いていたけれど、私は驚かなかった。
彼の性格をよく知っているからね。
「それにしても、神宮寺さんが修業とはね・・・。
今でもいい腕を持っているのに」
店長が休憩中にボソッと呟く。
私も神宮寺くんはいい腕を持っていると思うけれど、彼は満足していない。
もっと上を目指そうとしているから、納得いくまではこちらへ戻ってこないと思う。
何年修行するのか教えてもらえなかったけれど、恐らく3年くらいは戻ってこないんじゃないのかな。
神宮寺くんのいないパン屋は、現在私がメインになって運営している。
店長も私を頼ってくれているから、頑張らなきゃいけないと思って。
しかし、まだイチゴのメロンパンがうまく作れなくて困っている。
カレーパンは上出来なんだけどな・・・。
神宮寺くんみたいには、やっぱり上手に作ることが出来ない。
もう少し遅くまで残って練習した方がいいかもしれない。
中途半端なものをお客さんに提供するわけにはいかないし!
神宮寺くんを見習って、私も練習してうまくならないと。
「青野さんが一緒に入ってきてくれたおかげで、お店も助かってる。
神宮寺さんのいない間、宜しくお願いしますね」
「はい、私で良ければいくらでもお力添え致します」
神宮寺くんが居ない今、私が頑張らないとね。
休憩時間を終えて、私達は業務へと戻った。
パン作りを始めると、お客さん達が覗きにガラス越しまでやってくる。
そうやって見られていると、何だか作りにくい。
ただでさえうまく作れている自信が無いと言うのに。
そんなことを思いながら、私はイチゴのメロンパンを作っていく。
最近はこのメロンパンを買い求めに、女子高生も通ってくれるようになった。
以前までは子供連れの母親しか来ていなかったのに。
カレーパンも男性に人気で、男性の足も少しずつ増えてきている。
ビールに合うカレーパンも好評。
「青野さん、何か新しいメニュー作ってみない?
神宮寺さんにも作っていただきましたし、青野さんもどうかな?」
「新しいメニューですか?」
そんなことを言われると思っていなかったから、キョトンとしてしまった。
新しいメニュー、どんなものがいいだろうか。
カレーパンとメロンパンは神宮寺くんが作ったから・・・私は・・。
何か変わったパンを作ってみたいな。
見た目とか変わったものがいいかもしれない。
今までに見た事の無いものとか。
何か私らしいものがいいかな?
「それなら、青いロールケーキなんていかがですか?
スポンジに少しブルーハワイやブルーキュラソーを加えて。
見た目は美味しそうに見えないかもしれませんが、味はバッチリです!」
「青いロールケーキ?
食欲の減退になっていいかな?
食べ過ぎると太ってしまうからね」
「ええ、早速お作りしてもいいですか?」
「今日はお店も空いているから、作ってもいいよ」
店長から許可をもらって、私は早速新作メニューに力を入れることにした。
青いロールケーキってケーキ屋さんだったら、置いてあるかもしれない。
ただし、ここはパン屋だから、たまには違うものを置いて構わないと思う。
いつも同じではつまらないからね。
私は早速材料をそろえて、準備をしていく。
実は、以前青いイチゴがある事を知って調べてみた。
それは青々しくて、まるでフォトショで加工したくらいに青いイチゴだった。
デマだと言っている人もいるようだが、実在すると書いている人もいた、
神宮寺くんには話していないが、実は以前私はケーキを作りたくて、近くのお店でずっとケーキの勉強をして来た。
実際に作ったりして学んできて、料理よりも調子が良かった。
料理は難しいが、スイーツはほとんど機器を使うから余程のことが無い限り、上手に作れるようになっている。
「よし、これでスポンジをじっくり焼き上げて・・・と。
この間にクリームを作っておこう。
クリームまで色がついているとひどくなるから、ホワイトのままにしよう」
さすがに全体に青々していたら、食べるに食べられない。
青と言うのは、食欲を減退させる効果を持っている。
だからあまり青々としていないものを、作らなければいけない。
程よい色が求められる。
周囲も何だか心配そうに見ている。
オーブンが鳴る音がして、私はスポンジを取り出した。
見るからに上手に焼けていて、私はホッと一息ついた、
クリームも作り終わって、スポンジの上へとのせていく。
そして、くるくると回していく。
見事に出来上がり、私は冷ますためにロールケーキを冷蔵庫の中へとしまった。
後は冷やして出来あがるのを待つだけだ。
それから完成したロールケーキをみんなの前で見せた。
あまり甘すぎてはいけないと思ったから、生クリームの中へ入れるお砂糖を少なめにした。
個人的には甘い方が好きなんだけど、これは売り物だから。
自分で食べるために作るならお砂糖もたくさんいれるけど、お客さんに提供するものだから変えていかなければ。
「わぁ、青いロールケーキなんて初めて見ました!
食べてみてもいいですか?」
「私もどんな味がするのか確かめてみたいです!!」
「どうぞ、どうぞ」
そう言いながら、私はナイフでロールケーキを切り分けていく。
そのケーキを食べたみんなが何とも言えない表情をしながら黙り込んでいる。
もしかして、美味しくなかったのかな?
私は結構好きなんだけどな・・・。
すると、みんなが更にむしゃむしゃ食べ始めた。
「最初は驚いたけど。これすごく美味しいです!
見た目に驚きましたけど、中身はしっかりしていますね!」
「うん、私もすごく美味しいと思います!
この青いのはどんなふうにして出したんですか?」
「青色はね、ブルーキュラソーを使用したの。
かき氷に使うブルーハワイと迷ったんだけどね」
我ながら綺麗ないい色が出ていると思った。
店長も気に入ってくれて、明日から早速販売することになった。
ブルーキュラソーと言っても、アルコール分は全くない。
焼いている間に飛ばされてしまうから。
出来れば、神宮寺君にも食べさせたかったな・・・。
今頃、神宮寺くんも頑張っている最中かな?
私も神宮寺くんに負けないよう、頑張っていかないと!
だから、神宮寺君も頑張って・・・・!