結局、あれから俺は再びギャンブルにハマってしまった。
あの頃のように、ギャンブルにハマってしまって、今もギャンブルをしている。
これじゃあ、完璧にダメ人間じゃないか。
自分が一番よくわかっているんだ、このままじゃいけないんだって。
だけど、どうすることも出来ない。
今日も貯金を切り崩しながら、ギャンブルを続けている。
それでも一向に勝てる気配がない。
この間はあんなにもついていたはずなのに、すごい周期だな・・・。
ついてない時は、とことんついていないと言うわけか。
だからこそ、勝てた時はあんなにも嬉しいものなんだろうな。
勝てた時のあの嬉しさがたまらなくて、ギャンブルを続けてしまうんだよな。
辞めようと思った時になぜが信じられないほどの大金を、充実感を味わう事が出来る。
何度もやめようと思ったが、俺もこの心理に勝てなかった。
我ながら本当に単純だと思っている。
あれから大金をギャンブルに失い、貯金の方も減ってきた。
このままでは、貯金もいつかはなくなってしまう。
もう借金することは出来ないから、貯金がなくなってしまえば何も出来なくなってしまう。
「だけど、あともう少しだけ」
そう自分に言い聞かせるようにして、俺は更に金をつぎ込んでいった。
この数日間で、俺は何十万円もの金を無駄にしてしまった、
それでも勝てるような気がしている。
どうして、ギャンブルをしている者は勝てそうな気がする!と自信を持って言えるんだろうか。
自分自身でも疑問に感じた、
そんな根拠なんかどこにもないのにな。
さらにつぎ込んでも結局当たりなんか来なくて、少しずつイライラしてきてしまった。
こんなに金を払っているのに、全く当たりを出そうとしないから。
「全く、ダメな機械だなっ!」
そう言って、俺はそのパチンコ台を叩きつけた。
物にあたるのは良くないとわかっていながらも、ついついあたってしまう。
これは俺だけじゃない。
例のカジノから外へ出ると再び、いつの間にか夕方になっていた。
時間が過ぎるのは、本当にあっという間。
街を歩いていると、見覚えのある人物が歩いていた。
それは、水梨でこの間の女性とはまた違う女性と一緒に歩いている。
一体、どっちが女好きだと言うんだ!
俺は女遊びなんて一切していない。
しているのは水梨の方で俺には全く関係ない。
俺は気付かれないように、そっと身を潜めて様子を覗った。
「それで、あれから黒音の噂、どうなった?」
「どうなったって、それはもう最悪ですよ~。
私も遊ばれたとか言い始めた看護師もいますし?」
「そうかそうか、順調に噂が流れているんだなぁ」
「順調って、そんなに黒音医師が嫌いなんですか?」
「当たり前じゃないか、あいつは元ギャンブラーのくせして医師なんかやりやがって。
どうして、オレよりもあいつの方が患者多いんだよ」
・・・・たかがそんな理由で?
そんな下らない理由で俺の噂を流したのか?
俺に自分の誤診を押し付けたのか?
そう思うと、無性に腹が立ってきた。
確かに俺はギャンブラーだが、誰にも迷惑なんかかけていないじゃないか。
それに患者が多いのは、患者が俺を選んでくれているからで、俺が何か特別なことをしているわけではない。
一方的に嫌がらせをされたって仕方がない。
俺は手にしていた紙をくしゃくしゃに丸めて、水梨めがけて投げた。
そのくしゃくしゃになった紙は、見事水梨の頭にあたった。
誰だ、俺にごみを投げたのは!と怒っているが、周囲は見て見ぬふりをしている。
よしよし、これくらいやったって罰は当たるまい。
その数週間後。
俺は院長から呼び出されて、院長室へと訪れた。
そこには院長と姉貴の姿があった。
どうして姉貴がここへきているのかは分からないが、院長が呼んだに違いない。
話があると言われたが、一体何の話があると言うのだろうか。
俺は黙ったまま、二人の方へと歩いて行った。
「君を呼んだのは他でもない。
このまま医師として、君には続けてもらいたいと言う話なんだ」
「俺に続けろって言うんですか?
あんな噂を流されて、誤診の罪まで押し付けられて、誰が俺を信じているんです?
あんな環境の中でどうやって過ごせばいいのか、俺には分からない・・・」
「柩、そのことなんだけど証拠をつかんであるから問題ないわ。
全て私があいつの弱みを握ったのも同然だから」
証拠をつかんだと姉貴は言っているが、どのようにして証拠を掴んだのか気になる。
姉貴の言っている証拠って、噂を流している場面でも押さえたのだろうか?
俺もこの間の姿をカメラに撮っておけばよかった。
俺は誰からも信頼されていないし、何を言っても簡単には信じてもらえない。
だからどうでもいいと思っていた。
別にもう誰も俺の事を信じてくれなくても構わない。
「証拠を見せても、でっちあげだとか言って誰も信じてくれませんよ。
俺はもういいよ、このままで」
そう言って、ため息をつきながらソファに腰を掛けた。
何もかもを諦めてしまったから、今更どうこうしようとは思わない。
一度そういう噂を流されてしまえば、イメージがついてしまう。
それに、俺は現在もまだギャンブルをしているから、間違いではない訳だし。
俺の様子を見た二人が互いに顔を見合わせている。
もしかして、何かに気が付いたのか?
俺がずっと黙っていると、院長ではなく姉貴が口を開いた。
「あんた、まさか・・・」
「そう、またギャンブルを始めたんだ。
どうせ俺はこうなる運命だったんだ、克服したって幸せにはなれない。
だったら、いっそのことこのままでいいんだよ」
「バカッ、それじゃあ意味ないじゃない!
何してるのよ!!」
「俺の気持ちが姉貴なんかに分かるのかよッ!!」
「・・・っ!?」
俺は言いたいことを全て吐き出した。
今まで抑えていた感情も全て、吐き出した。
ギャンブルすることがなぜいけないのか、どうして噂を簡単に信じるのか。
デマの情報を流され、誤診まで押し付けられて。
こんなに苦しいんだったら、いっそ死んでしまった方が楽になれるんじゃないかって思うんだ。
この気持ちは誰にも理解なんかできるわけがないんだ。
想像はできるかもしれないが、しょせんは想像だ。
悔しくて情けなくて、涙が零れてきた。
なんで俺が、こんな目に遭わなきゃいけないんだ?
すると、姉貴が俺の肩に手を置いた。
「柩、死んだ方がいいなんて言うものじゃないわ・・・。
ギャンブルに逃げたくなる気持ちもわかるけれど、やっぱり良くないわよ?
体を蝕むモノだから、毎日のようにしないで」
「黒音くん、もう一度ギャンブルを絶ってみないか?
大丈夫、君の事なら私達がどうにかしてあげられるから」
そんなことを言われても、はい頑張ります、なんてとても言えない。
どうにかしてあげられるって言われても困ってしまう。
すると、姉貴がそのまま院長室を後にした。
一体どこへ行くつもりなんだろうか?
気になって後を追ってみると、いきなりビラ配りを始めてしまった、
俺は宙に舞っている資料を手に取り、内容を確認した。
何が書かれているのかと思いきや、そこには噂を流しているところの写真や、誤診の事について書かれていた。
それも事細かく書かれていて、すごい。
白黒ではなく、カラー写真が貼られていて綺麗に見えるから、全てが丸見えになっている。
「みなさーん、新聞読んでください!
この院内で起きていることが書かれていますよ~!」
そう言うと、皆がその新聞を拾い集めた。
その新聞の中身を見て、やはりみんなが鼻で笑った。
どうせ、こんなものでっちあげだろ?とか、苦し紛れのいいわけかよ?とか。
やはり、俺の事は誰も信じてくれなかった。
俺は落ち込みながら、その場に立ち尽くした。
やっぱり映像とか声とか録音しなければいけないのだろうか・・・。
これじゃあ、やっぱり合成だと言われても仕方がない。
すると、いきなり何かの音声が流れてきた。
『順調って、そんなに黒音医師が嫌いなんですか?』
『当たり前じゃないか、あいつは元ギャンブラーのくせして医師なんかやりやがって。
どうして、オレよりもあいつの方が患者多いんだよ』
この会話って・・・あの時の会話じゃないか?
どうしてこの会話が録音されているんだ・・・。
その声を聞いた連中の顔色が変わり、この声は水梨じゃないか?となった。
院内中に流されてしまっているから、此処にいる連中以外にも聞こえている可能性が高い。
そんな中、あるディスクが投げられ、俺もそのうちの一枚を拾った。
このディスクは一体何だ?
俺はすぐさま近くに置かれたパソコンで、中身を確認した。
そこには、噂を流している水梨の姿や女遊びをしている様子、誤診を隠ぺいしている様子が全て収められていた。
もしかして、誤診をしたのはあの患者だけではなかったのか?
それを見た連中がざわざわし始め、俺が本当のことを言っていたのだと理解したようだった。
「な・・んだよ、これ」
そこへ水梨がやってきて、新聞や映像、音声を聞いて固まった。
顔は血の気が引いていて、まずったというような表情をしている。
俺の方を見てくる水梨を、俺は冷酷な眼で見返した。
姉貴や院長も、それはとても冷酷な眼をして水梨を見ている。
そして、周囲の連中も。
それから、水梨に協力していた看護師たちがやってきて、顔色を変えていく。
自分は頼まれて協力していただけだと、ほざいている。
何を言ったって、もう誰も信じない。
これだけの証拠を突きつけられてしまえば、誰だって身動きが取れないだろうから。
水梨たちは居場所がないとでもいうかのように、一か所に固まり何か言いたそうな表情をして俺の方を見ている。
身から出た錆なんだから、自分でどうにかするしかないだろ?