マキと約束をしてから、私は初めて自分の借金と向き合う事になった。
現在、私が抱え込んでいる借金の額は150万円を超えていた。
思っていたよりも少ないと思ってしまったのは、もうすでに私の金銭感覚がマヒしているからなんだろうな・・・。
マキはすごく驚愕していたから、普通はヤバいと思うんだろうな。
私が借入していた消費者金融は3社。
それぞれ50万円ずつ借金をしている状態で、マキはおまとめローンがいいんじゃないかと提案をしてくれた。
それぞれ別の場所から借金しているという事は、金利も違うし重複支払いになってしまう。
おまけに、返済日が月に数回あるから忘れてしまう可能性もある。
現に1、2回私は延滞してしまっている。
「このみ、返済手伝おうか?」
「ううん、大丈夫。
自分でまいた種だからね、自分でどうにかしないと意味ないでしょ!
あ、でもマジでヤバくなった時はヨロシクね?」
「なにそれ~!」
マキが笑って私の肩を叩く。
今まで借金してギャンブルをして来たから、給料は貯金してある。
だから、返済もそんなに苦労することなく出来るんじゃないかな?
月に5万5千円くらい返済していけば、3年で借金を完済することが出来る。
この3年間を長いと思うのか、それとも短いと思うのか。
私にとってはきっと長いものだと思う。
でも、今までギャンブルで使ってきたんだから仕方がない。
むしろ、3年で完済できるならまだマシなんじゃないかと思う。
酷い人は何十年とかかると聞いたことがあるから。
「このみ、聞いた?
人事異動の話なんだけど・・・」
「え、もしかしてそれって私の事?」
「ううん、このみじゃなくて・・・サツキ」
そうなんだ・・・一瞬私かと思ってびっくりしちゃった・・・。
せっかく順調になってきたのに、人事異動なんか言い渡されたら困ってしまう。
人事異動するのはサツキの方だったんだ。
マキからその理由を聞くと、やはり仕事スピードが遅く業務時間内に仕事を終えていないのに残業もせず帰ってしまうからなんだそうだ。
地方の子会社に異動が決まったとの事らしいけど・・・大丈夫なんだろうか。
サツキを見ると、ダンボールに少しずつ荷物をまとめているのが見えた。
あれ、今後ショウとはどうするんだろう?
そもそもギャンブルしている事、まだ知らないのかな?
「サツキ、借金500万あるらしいよ。
全部パチンコとボートレースで使ってたみたい」
借金500万?!
私は150万でたいしたことないと思ったけど、さすがに500万は厳しいかもね・・・。
150万返済するのに3年かかるという事は・・・ざっと計算したって10年くらいかかるんじゃ・・・。
いや、返済額によって、もしかしたらもっとかかるかもしれない。
そうか・・・もう少しで私もあんなふうになるところだったのか・・・。
実際に悪い状況に陥っている人を目の当たりにすると、自分が向かっていた先の怖さを知る。
破産宣告すればいいやとか思っていたけど、そうしてしまうとお金を借りることも出来ないし、ローンを組むことも出来なくなるんだ。
後々調べたけど、自己破産宣告をした人は金融事故者として最低でも7年~10年は記録が残るみたい。
「このみはよかったわね。
まだ引き返せるから、本当に安心」
「そう、だね」
何で私の心、こんなに揺れているの?
実際自分がそうならなくて良かったっていう震えなのかな・・・?
借金をして返済しないからと言って、怖い人が取り立てに来たりする事は無いみたいだけど、調子に乗るのは良くないよね。
私はなんだかんだ言って、ギャンブルでお金をキャッシングしつつも返済を続けていたからこうしてまだ穏やかに過ごせているのかもしれない。
ちゃんと返済を続けてたから、150万円にとどまっていたのかと思うと背筋が凍った。
もし、返済を続けていなかったら・・・。
だけど、内心サツキがそんな目に遭って嬉しいと思っている自分がいる。
性格が悪いかもしれないけど、私を馬鹿にしてショウを奪ったんだからこれくらいの仕打ちあってもいいでしょ?
その時、サツキと目が合ったから私は再び冷笑した。
今にも泣きそうな表情をして、その場から走って立ち去っていくサツキ。
「雪城、こっちもお願いしてもいいかー?」
「ええ、任せて下さい」
私はそのまま仕事へと戻った。
借金を抱えているのは同じなのに、ギャンブラーであることも同じなのに。
私とサツキの境遇が全く違う事に気が付いて、不思議に感じた。
たぶん、仕事量とか残業とかなのかな?
私も一時期はどうでもよくなって、全く残業なんてしなかったけど最近はまた残業するようにしている。
少しでも返済に回したくて。
マキも一緒に残業してくれているのが、申し訳ないけど嬉しく思う。
時間が過ぎるのもあっという間で、気が付けば就業時間なんていうことも多くなった。
今までは仕事帰りのギャンブルの事しか考えていなかったから。
もちろん、今でも
パチンコがやめられなくて打ちに行ってるけど、そんなに大金は使っていない。
あくまでも5千円とかだから、負けたって大したことない。
「このみ、この後パチンコ行くの?」
「ううん、今日は行かないよ」
そう、今日は行かない。
週に3日と新しく決め事をしたから。
それだったら無理なく克服していけるんじゃないかな。
無理にやめようとすれば、またぶり返してしまう事になるから。
今日はまっすぐ家に帰って、ゆっくりしようかと思っている。
前に少し頑張ったから、今はそんなに離脱症状もひどくない。
あの頑張りは無駄じゃなかったのかな・・・?
「このみ、また明日ね」
「うん、お疲れ様」
私達は駅前で別れて、それぞれの帰路へと着いた。
最近は気分がすっきりしているし、不眠の症状も和らいできている。
まだ夜中に何度か目を覚ましてしまうけど、そこまで酷くないから大丈夫。
だけど、夢の中でパチンコをしている自分がいるんだよね・・・。
現実では出来ない分、夢に出てきてしまうのかもしれない。
家について、私はまっすぐ浴室へと向かい一足先にお風呂に入った。
早く入って疲れを取りたい。
パパッとやることを終えてお風呂を出て、着替え冷蔵庫を開ける。
中には沢山のビールが入っている。
「そっか・・・忘れてた」
ギャンブルに溺れて思考力がおかしかったために、ビールを大量に買ってしまった。
まぁ、ビールがあって困ることなんてないんだけど・・・。
でも、今後は少しずつビールの数も減らしていくべきなのかも。
私は一本だけ取って冷蔵庫を閉めた。
冷えたビールを開けて、口元へ運んでいき冷たいビールが私の喉を潤していく。
・・・くーっ!
って、なんか私ますますおっさんみたいになっているよね・・・ヤバいヤバい。
テレビをつけると、パチンコ依存症の人がインタビューを受けていた。
最初は、些細なキッカケから始まって気が付いたら、借金してまで続けていたと話している男性の姿を見て、私はドキッとした。
しかし、その男性は現在少しずつパチンコをやめて借金返済をしているらしい。
気が付いたら借金が1000万以上もあったらしい。
「私の借金なんて、全然やり直せる金額だったんだ・・・」
1000万以上の借金をしている人が、更生しようと頑張っている。
私の借金は大したことないかもしれないけど、私も返済していかなきゃ。
苦しくてもこうして頑張っている人がいるから、私も見習わないと。
―♪~
すると、私の携帯電話が鳴った。
確認すると、その相手は母親からのものだった。
「あ、お母さんどうしたの?」
「どうしたの、じゃないでしょう。
この間、電話でなかったじゃない!」
「ごめんごめん」
お母さんから電話がかかってきたことがあったんだけど、パチンコの最中だったから電源を切ってしまったのだ。
その後、折り返すのがめんどくさくて、そのままにしてしまっていた。
すっかり忘れてた・・・すんごい怒ってるし・・・。
私は何度も謝り、ショウと別れたことを話した。
お母さんは、ショウと私が付き合っていたことを知っているから。
さすがに別れた理由は言えなくて、ごまかしてしまったけど。
すると、お母さんがお見合いの話を出してきた。
「いい人がいるのよ。
お見合い、受けてみない?」
お母さんからそう言われて、私は口ごもってしまった。
前向きになってきたのは確かだけど、お見合いだなんてまだ早いような気がするし、出来れば自分のペースで見つけたいと言うか。
その旨を全て話したが、お父さんもお見合いには賛成しているらしい。
無理もないか・・・もう一人は弟しかいないもんね。
だけど、もう少し整理する時間が欲しい。
今決めてしまうのは、何だかいけないような気がする・・・。