ギャンブルをし始めてから、本当何もかもが変わってしまったような気がする。
いい意味でもある意味でも。
それに、仕事は順調で任せてもらえる仕事も今では多くなった。
ギャンブル依存症って、ギャンブルにしか興味がなくて仕事なども手に着かなくなるって聞いていたけど、私の場合はそこまで酷くないのかもしれない。
中途半端にギャンブル依存症になっていると言った感じ。
後戻りしようと思えば出来るし、このまま借金まみれになることも出来る。
どちらを選ぶのかは、今決めた方がいいのかもしれない。
だけど、正直どっちでもいい。
「雪城、この資料のコピー頼めるか?」
「はい、わかりました」
私は営業の人に頼まれて、コピーを取っていく。
コピーなんてもうお手の物。
残業は断り続けているけど、通常業務はしっかりこなしている。
仕事はやっぱりしっかりしなきゃいけないと思うから。
私はてきぱきこなしているけど、サツキは最近よく怒られている。
ミスをしているのか、それとも協力的ではないのか分からないけど。
何て言うか、典型的なギャンブラー体質。
ショウとうまくいっていないのか知らないけど、殺気立っている。
私はもうサツキとは関係ないから、一切口をきいていない。
「こーのみ、今日付き合ってくれない?」
「え、どこに行くの?」
「ちょっと誕生日プレゼント見にさ」
「うん、私で良ければいいよ」
マキに誘われて、私は仕事帰り付き合う事にした。
本当は今日もパチンコやりに行こうかと思っていたんだけど、まぁいっか。
我慢できないほどではないし、機能もパチンコ屋ってきたし。
今日くらいしなくても、イライラしたりしない。
業務時間内にしっかり仕事を終わらせるようにして、私はマキと一緒に夜の街へ繰り出した。
すっかり夜空は暗くなって、ビルなどの灯りがイルミネーションのようになっていた。
夜っていいよね、キレイで街並みのせいなのか少し近未来のように見える。
以前までは夜が怖くて仕方がなかった。
もともと寝つきがいいわけではなかったし、小学校に上がってからもなかなか一人で眠れなくて大変だったのを覚えている。
この間までは、ギャンブルを克服しようとしたせいで不眠症状を引き起こしてしまったが。
「それで、誰の誕生日プレゼントを買うの?」
「うん、お母さんの誕生日なんだよね。
どんなものがいいのか、このみの方が詳しいんじゃないかと思ってさ!」
「私そんなにセンスないと思うんだけどなぁ・・・。
でも、探してみようか!」
私達はショッピングモールに入り、キッチン雑貨とか家電製品とか色々眺めた。
マキのお母さんはよく料理をしているから、キッチングッズとかそれに関連している家電を贈ると喜ぶかもしれない。
でも、料理好きな人だからそう言ったものはすでにそろえてあるらしく、なかなか見つからない。
たくさんお店を見て回っているけど、素敵なものが見つけられなくて困ってしまった。
そんな時の為のスマホだよね!
私はスマホを取り出して、誕生日プレゼントについて検索して見た。
最近では名入れギフトが人気みたいで、他にもオーダーメイドのものが人気らしい。
「マキ、名入れグッズとかオーダーメイドのものにしてみたら?
お母さんの名前入れてもらうとか、すごく喜んでもらえるんじゃないかな」
「名入れギフトか・・・それいいね!
どんなものに入れられるんだろう?」
「グラスとかオルゴール、絵本にワインオープナーにも入れてくれるって!
マキのお母さんワイン好きだからさ、シャトーラギオールなんてどうかな?
少し高価なものだけど、ワイン好きにはきっといいと思う!」
「しゃ、シャラ・・・?」
「シャトーラギオール、ワインのソムリエとかが使ってるやつだよ。
ほら、ワインのコルクを開けられるオープナーのこと!」
シャトーラギオールは高価なもので、ワイン好きでも手を出せない人が多い。
ソムリエナイフとも呼ばれている物で、その品物にもよるけどいいものだと4万円くらいするものなんだ。
OLをする前、私は出版社にいてワインの雑誌に携わっていたから知っているけど、普通の人は分からないよね。
ソムリエナイフって、一つ一つ職人の手作りだから個性が違う。
中にはワインが入れられていた樽を使ったものもあるから、希少価値がある、
ワイン好きにはたまらない品物なんじゃないかな。
「それすごくいいね!
少し高いけど、誕生日プレゼントには最高かも!
ネーム入れ出来る?」
「うん、そのお店によって変わるけど出来るはずだよ。
通販だから、余裕を持って注文した方がいいよ」
「ありがとう!
やっぱり、このみすごくセンスいいわ!」
「あはは」
マキが子供みたいにはしゃぐから、私は笑ってしまった。
こんな風に誰かのために何かできるっていいな。
もっとこんな笑顔を見られたらいいのに。
家族仲が良くてうらやましい。
私の家族も仲がいいけど、最近は連絡を取っていない。
私がギャンブルをしていることも知らないし、借金していることだって知らない。
そう考えたら、少し胸が痛くなってくる。
嘘に嘘を重ねたって、仕方のないことなのに。
私達は夕食をしてから帰ることにした。
あるレストランに入って、お互いに食べたいものを注文していく。
メニューが運ばれてくるまでの間、マキは嬉しそうにシャトーラギオールを検索して眺めていた。
色々あるから、きっとどれがいいか悩んでしまう。
私も最初見た時は全く同じで、何も知らなかったから覚えるのが楽しかった。
「ねね、これなんかどうかな?」
見せてきたのは、クレ・デュ・ヴァンというソムリエナイフだった。
この品物は、2000年に行なわれたソムリエ大会で優勝した人物が、他の人と共同開発したことで有名になっている物。
ワイン好きなら誰でも知っているようなことだから、きっとマキのお母さんも気に入ってくれるはず。
私はためらうことなく、そのソムリエナイフをオススメした。
やはりネームを入れるから、それなりに時間がかかってしまうみたいだけど待てる。
まだ誕生日まで時間があるから。
「ねぇ、このみ。
ギャンブルするの控えめにして、借金返済していかない?」
「え、どうしたの急に?」
「うん、やっぱりこのみには明るい場所が似合うと言うか・・・。
借金まみれになって破産宣告したら、ご両親も悲しむと思って」
マキ・・・真剣に私の事を考えてくれていたんだ・・・。
ギャンブルをやめるのは難しいけど、控えめにするなら私にもきっと出来ると思う。
だけど、今はまだこのままが楽しいと言うか。
完璧なギャンブラーじゃないから大丈夫だと思うんだけど・・・。
借金はヤバいかもしれないけど、まだそこまで危機感が無いと言うか。
私は口ごもってしまった。
両親は全く知らないし、誰にも迷惑かけていないんだけどな。
「わかった・・・努力はしてみる」
「うん、そのために私もできることはするからさ!」
マキが張り切っている。
頑張れるのかどうか分からないけど、一応努力だけはしてみる。
どうなるのか分からないけどね、でもマキがそう言ってくれるから。
もう友達を失う事なんかしたくないから。
一度頑張ってこれでもかというくらいに傷つけられて、壊れてギャンブル三昧。
今は借金をしながらギャンブルをし続けている有様。
借金をしてまでもパチンコをしたいと思っている自分を、私は何も感じていなかった。
だけど、変われるキッカケなんて実は自分の近くにいつもあるんじゃないかな。
好きな人や信じていた友達に裏切られて、もうだめだと思った。
借金返済しても、ギャンブルをやめても仕方がないとまで思った。
それでも、ギャンブルの事しか考えられない状態には陥らなかった。
「このみ、適度に自分らしく頑張ろう?」
「適度・・・自分らしく?」
あの時は何もかもが必死過ぎて、無理矢理ギャンブルするのをやめてしまった。
だから、リバウンドしてギャンブルに入り浸るようになったのかもしれない。
頑張ろうと無理に行動すれば、その分大きく跳ね返ってしまうんだ。
ダイエットと同じ原理で、無理をすればそれが身体に負担がかかってしまう。
適度に頑張ればその繰り返しで、少しずつ抜け始めていくかもしれない。
簡単には行かないと思う、でも。
もう一度だけ頑張ってみるのも悪くない。
「頑張れるかな・・・」
「このみなら、出来るよ。
何てたって、この私がついているんだから!」
マキが頼もしい笑みを見せるから、何だかそんな気がしてきた。
一度は諦めてしまったけど、借金もしてしまったけど。
もう一度、頑張れば私の何かが大きく変わったりするのかな?
でも、私は自分の未来に何も期待してないし、幸せなんて望まないよ。