今日は休日だから、私は消費者金融からお金を借りてパチンコをしている。
別にお金がないわけじゃないんだけど、即日融資だから魅力的。
自分のお金を使いたくないっていうのもあるんだけど。
他のギャンブラーと違って、私はまだまともな方だと我ながら自負している。
借金しているのは同じだけど、ギャンブルに対する姿勢が違うっていうのかな?
私はそこまで躍起になっていないから、まともな方だと思う。
パチンコでまた当たりを出した私は、ケースを持って玉を回収していく。
うんうん、この感覚がたまらない。
「♪~」
私は口笛を吹きながら玉を回収し続ける。
今日は気分がいいから、夜まで打ち通そうかな?
何回勝てるのかっていうのも知りたいし、勝てればその分儲けられる。
やっぱり、ギャンブルの中で一番私に向いているのはパチンコだと思う。
競馬も楽しいけど、勝てた試しがない。
今まで一度しか勝ったことないし、あとはずっと負けっぱなし。
負けていても楽しいと思えることは少ない。
ギャンブラーって、負けると腹いせに八つ当たりと化しているけど私はしない。
そこはちゃんとコントロールできているから、問題ない。
「君、本当にギャンブラーに戻ったの?」
急に声がして振り向くと、ナギトさんが立っていた。
また・・・結構しつこいな・・。
ギャンブルする人間を嫌っているくせに、どうしてパチンコ屋にいるのかさっぱり分からない。
嫌だったら関わらなければいいのに。
何がしたいのか、私にはよく分からなくて・・・ううん、分かりたくないかも。
私が黙って打ち続けていると、再び彼が口を開いた。
「そうやってギャンブルに溺れて、楽しいのか?」
「別にあなたに関係ないんだから関わらないでよ。
それとも何、私に構ってほしいわけ?」
私が嫌味たっぷりに言い返すと、彼は黙り込んでしまった。
何だ、言い返すことが無いなら言わないでほしい。
それに私が何をしたって、この人には関係ない。
口出ししてくる意味が分からない。
それってこの人にとって何か得になるのか・・・ならないよね?
せっかくの休日だっていうのに、嫌な顔見ちゃったな。
どこか別の場所で打ち直そうかなぁ。
「もう二度とその顔見せないでくれる?
私が何してもあなたには関係ないんだから、近づかないで」
「だけど、このままじゃ君は・・・っ」
「あのさ、私がギャンブルに溺れていく様が見たいんでしょ?
だからその姿を見せているっていうのに、何なの?」
そう、私が壊れることをこの人は望んだ。
望んだというか、そうなると言って決めつけていた。
それなのに、今度はそんな私を引き留めようとしている。
私がどうなることを望んでいるのか。
それとも、私につらく当たって私が変わる姿を見せてやるという事を期待していたのだろうか?
私は負けず嫌いだけど、今はそんな気力ない。
むしろ、どこまで堕ちることが出来るのかみてみたいとすら思っている。
頑張れば何とかなるなら、堕ちた人間は一体どこまで堕ちるのか知りたい。
「俺は別にどうも思ってないけど、他の人はそうじゃ・・・」
「どうも思ってないのなら、どうでもいいでしょ?
ほっとけばいいの、関わらなくていいの、そういうのウザいから」
私はそう言い残して、その場から離れた。
人に口出しされるのって嫌いじゃないけど、この人に言われたくない。
それに、この人の名前しか知らないし今の所嫌味を言われたり嫌がらせしかされていない。
関わるとろくなことが無いし、下手なことなんか言えない。
今の私には何も隠していることが無いから、いいけどね。
パチンコ屋を出て、街を歩いていく。
周囲にはカップルがいて楽しそうに過ごしている。
以前の私ならこの光景がうらやましく感じたけど、今は全く思わない。
恋愛に現を抜かすなんて。
昔の私はきっとショウが好きだった気ではないんじゃないかって思う。
恋に恋してると言うか、まだまだ未熟で愛情を押し付けていただけだったのかもしれない。
別れを告げられてショックだったのは本当だけど、今はもう乗り越えてしまっているから、そこまで想っていなかったのかもね。
「さて、ここに入ろうかな?」
新しく出来たばかりのパチンコ屋らしくて、今日は出血大サービスと書かれていた。
その文字を見て、私は自然とそのパチンコ屋へと足を踏み入れた。
中は思っていたよりも混んでいて、台を探すのが大変だった。
ようやく見つけたパチンコ台は、奥の方にひっそりと置かれているものでいかにも負けそうな感じがする台だった。
とりあえず、出血大サービスって書いてあったから信じてみようかな!
私はお金を入れて、打ち始めるが当たりそうな気配はない。
どうしてこんな感じなんだろう。
もっと勝ちやすかったらいいのになぁ・・・そう思っていると。
「・・・え、嘘でしょ?!」
急に当たるチャンスが舞い込んできて、私は思わず席を立ってしまった。
のんきに座っている場合じゃない、これはしっかりやらないと!
私は一生懸命ルーレットを見ながらボタンを押していく。
来い、来い、当たり!
これで当たれば、かなりの儲けを出すことが出来る。
いくらになるのかという事はまだ分からないけど、結構いい値段行くんじゃないかな。
私が一生懸命やっていると、遠くから当たったー!!と叫ぶ声が聞こえてきた。
うらやましい、私も勝たなきゃ!
私は全神経を集中させて、勝つことを祈りながらルーレットを順番にとめていく。
最初に出たのは7の文字で真ん中を推押したらさくらんぼが出そうになって、私は終わった・・・そう思って、諦めた。
しかし、運がいいのか真ん中も7が出てあと一個だけだった。
やっぱり今日はついてるかもしれない。
最後のルーレットが7に止まりそうになって、私は興奮した。
もしかしたら、また勝てるかもしれないって。
さっきも勝ったけど、また勝つかもしれない。
油断大敵、私は最後だからちゃんとルーレットの柄を見て覚えた。
あとはタイミングだけ!
たぶん、このタイミングで押したら7が出るはず!
そう思ってとめてみたら、7の一つ前が出てしまった。
「くっそー、なんだよ~!!」
思わず大声で叫んでしまった。
絶対勝てると思ったのに、最後の最後で運に見放されてしまった。
思いのほかショックで、私は脱力し椅子に座った。
私の様子を見ていた周囲の人達が、軽く私を励ましてくれる。
ドンマイとかおしかったなと言って、去って行く。
今のは我ながら本当に惜しかったと思う。
あともう少し、ボタンを押すタイミングが遅ければ勝てていた。
でも、まぁ、仕方ないか。
負けは負けだから、潔く認めるしかなさそうだ。
その時、遠く離れた場所でパチンコ台を売っているサツキにが見えた。
どうして、こんなところに・・・。
「なんでだよッ!!」
そう言って、パチンコ台を叩いている。
相当イライラしているみたいで、周囲の人達も驚いている。
私はあそこまで酷くないからよかった。
悔しい気持ちはあるけど、ここまで向きにはならない。
サツキの負けず嫌いなんだるうな。
じゃなきゃ、あそこまでキレたりしないと思うんだ。
そもそも、どうしてサツキがパチンコなんてしているんだろうか。
声をかけるのは嫌だったから、なるべく遠くから見るようにした。
すると、サツキが表に出て行ってしまった。
私は気になって、サツキを尾行することにした。
サツキは全く私に気が付いていない様子で、ある場所へと入っていく。
ここは・・・・消費者金融の無人契約機だった。
もしかして、サツキも借金しているんじゃ・・・。
だとすれば、私をよく非難出来たなって思う。
人の事よりも、まず自分の事を気にした方がいい。
「ショウはこのこと知ってるのかな?」
きっと知らないんだろうなぁ・・・ギャンブルしている事。
私も今初めて知ったくらいだし。
隠していることを話してもいいけど、関わりたくないしな・・・。
いっか、何も言わなくて。
これは自分自身で見抜いてもらうのがいいだろうから。
それにしても、すごい形相。
私よりもサツキの方がギャンブラーだったりしてね。
私はまだ完全に壊れたわけじゃないから平気だけど、サツキは何だかヤバそう。
変な言い方かもしれないけど、本格的なギャンブラーになりそう。
いや、あの様子だともうなっているかもしれない。
案外、借金とか私より多いかもしれない。
「最低とか言っていた割には、自分がそうなんじゃん」
人の事をよく言えたな、本当に。
サツキを見ていると、向こうが私に気が付いてハッとした表情を見せた。
私はサツキを見て冷笑を浮かべて、その場を去った。
すると、私の後をサツキが追ってきたが私は無視した。
話すことなんてないし、サツキがギャンブルをしていることを知れてよかった。
一緒だと思いたくないが、同じギャンブラー。
「待ちなさいよ、ショウに言うつもりなんでしょ!?
ショウに言ったら、タダじゃおかないんだから!!」
サツキが怒っているのを他所に、私は何も答えずにそのまま歩き続けた。
話していると疲れてしまうし、せっかくの休日に顔なんか見たくない。
別にショウに言うつもりなんてない、私には関係ないんだから。
でも、いつか必ずばれる時が来る・・・私の時みたいにね。