毎日のようにパチンコをする日々に戻ってしまった。
今までかなり頑張って抑え込んできたから、今は自由な感じがしていい。
もちろん、仕事はしっかりしているし借金の返済も一応続けてはいるけれど、新たに借金をしてしまった。
自由になれてその解放感がたまらなくて、どっぷりハマってしまっている。
よく今まで頑張っていたなぁと、我ながら感心している。
でも、もうそんな必要もなくなってその頑張りが消えてしまった。
サツキとは同じ社内だから顔を合わせるが、何も話さなくなった。
事の成り行きをマキに話したら、かなり激怒してサツキとショウ、ナギトさんの3人を非難した。
だけど、気付かなかった私も馬鹿だったんだよね、たぶん。
おまけに、私がギャンブラーで借金していることも、マキは知っている。
「このみ、ギャンブルって楽しい?」
「うん、楽しいよ。
だからついついキャッシングして借金しちゃうんだよね。
なんかもうどうでもよくなっちゃってさ」
「でも、あまり借金すると大変よ?
私・・・このみが心配で・・」
あ・・・今マキ、すごくつらそうな表情した。
私だけの問題で誰にも迷惑をかけていないつもりが、心配させてしまっている。
心配されるのって、あんまり嬉しくないな・・・。
気持ちのいいものではないから、心配させたくない。
でも、ギャンブルするのをやめたくないし、やめなくてもいいかなって思ってる。
自分の好きなことが出来ない人生なんて、何も楽しくない。
私はもう何も我慢なんてしたくない。
特にギャンブルをやめるなんて無理。
もう私には無理かもしれないなー・・・頑張れそうにない。
「でもさ、もう疲れちゃったんだ」
「このみ・・・」
もうね、疲れちゃったんだ。
頑張りすぎたのか、また無駄になるんじゃないかって思うと気力が失せちゃうの。
頑張るのは他の人に任せて、私は好きなことをしていたい。
もちろん、仕事は真面目にこなすし頑張るつもり。
でも、プライベートは頑張るつもりなんてない。
何かもう本当に何もかもがどうでもよくなっちゃった。
「な~に、そのしけた顔?
そんなにショウが欲しいの?」
どうしてこう絡んでくるかな・・・。
キライなら放置しておけばいいものを、こいつ結構めんどくさいな。
あれから私はもうサツキを親友だと思わなくなり、嫌いになった。
信じるつもりもないし、別にこの人がどうなろうとも知ったこっちゃない。
そして、ショウのことも最初は好きで好きで仕方がなかったはずなのに。
今ではすっかりフェードアウトしてしまっている。
どうしてあんなに離れたくないと思っていたのか、甚だ疑問だ。
「何ほざいてるんだか。
あんたさ仕事全くできないんだから、その分何かで取り戻さないとやばいよ?
まぁ、クビになってくれれば私としては嬉しいけど」
「なんですって!!」
「今は仕事中だからさ、他の迷惑になることやめてくれない?
そこ邪魔、通れないんだけど」
私はマキと一緒に素通りした。
いちいち関わってくるのがうざいんだよね。
大して仕事も出来ないくせに、口だけはうるさいからかなわない。
人に喧嘩を売っている暇があるなら、その分働けっつーの。
マキも私の隣で怒っている。
私も感情的だけど、マキもどちらかといえば感情的だからね。
でも、マキの方が私よりもずっと大人だと思う。
私はすぐに言い返してしまうけど、マキはそうしないから。
本を読まないからすぐに切れてしまうと聞いたことがあるけど、あまり関係ない気がする。
「このみ、結構言うようになったよね」
「そうかな?」
「うん、前よりも意思がはっきりしてていいと思う」
前よりも意思がはっきりしている?
全く気が付かなかった。
なんだろう、どうでもよくなったから本音を言えるようになったのかな?
飾ることに疲れて、今では素のまま過ごすようにしている。
今考えると、私って結構猫を被っていたというか素の自分を出せていなかったんだなって思う。
マキもこの方がいいって言ってくれたし、これからは下手に自分を隠したりしないようにしようかなって素直にそう思った。
「このみ、あまり強く言えないけどギャンブルは・・・よくないよ」
「心配しすぎだよ、大丈夫だって!」
私は笑いながら言った。
そう、別に今は大丈夫だから心配は必要ない。
本当にまずくなったら頑張ればいいと言うか、頑張れるのかな。
この先の未来に幸せが待っていると言われても、私は頑張る気力がわかない。
だって、私はもう幸せになれなくてもいいと思っているから。
周りが幸せならそれでいいんじゃないかって。
小さい頃、私はよく正直者で純粋な子だと言われて可愛がられていた。
しかし、今ではこのありさま。
正直ではなく嘘に嘘を重ねて、どんどん卑屈になって感情が歪んでしまっている。
それでもまずいと思っていないのだから、神経が麻痺しているのかもしれない。
「マキ、ごめんね」
謝ることしか出来なくて、私は苦笑した。
マキは相変わらず心配そうにしている。
元気がないわけではないし、自棄になっているわけでもない。
何だろうなぁ、脱力した感じと言うのが正しいのかもしれない。
仕事をする気力はあるし、仕事では頑張ろうという気持ちはある。
だけど、プライベートで頑張ろうだなんて思わない。
なんだかんだで仕事を終えて、私はパチンコ屋へと向かった。
もう、これが日課になっている。
これほど楽しいモノなんて、他にないと思うんだよね。
早速、お金を入れてパチンコを始めていく。
「今日は勝てそうな気がするんだけどなー!」
そう、今日はいつになく勝てそうな気がしている。
特に根拠なんてないけれど、そんな気がするんだ。
ギャンブラーなら分かってくれるよね?
私はそんなことを考えながら、パチンコを始めていく。
今までギャンブルをやめるために頑張っていたが、その離脱症状がすごかった。
手の震えとかなかなか眠れなかったりとか、暑いわけでもないのに汗かいたり。
それはすごい症状だったけど、あの頃は信じて頑張り続けていたんだよね。
ただ、違うのはギャンブラーと言っても本格的な訳じゃない。
本物のといういい方が合っているのか分からないけれど、私はギャンブルの事しか考えていない訳じゃない。
ちゃんと仕事のことも考えている、残業はしなくなったけど。
「来た―――ッ!!」
当たりが出て、銀色の玉がジャラジャラ出てくる。
この感覚、本当に久々ですごく嬉しい。
勝てる気はしていたけど、ここまで当たるなんて思っていなかった。
予想外の出来事に、私は笑みがこぼれた。
何だ、私やっぱり強運なんじゃない?
ケースに玉をたくさんいれて、再び打ち始める。
ギャンブラーのようにどっぷりハマっているわけじゃないっていうのは、自覚している。
だけど、ギャンブルで大金を手に入れれば借金返済も簡単だと思っている。
考えが甘いかもしれないけど、夢見るのは自由でしょ?
現実が不平等で残酷だから、夢を見なきゃやってられない。
「今日は久々に勝っちゃった!」
浮かれ気分で自分の家へと向かって歩いていく。
換金してもらって、今手元に15万ある。
最初は2万円だったのに、こういうことが起きるからギャンブルはやめられないんだよね。
さっき、借金返済に充てればいいって言ったけど、15万じゃ意味ない。
もっと大金を集めなきゃ、返済なんてバカバカしい。
自宅へ帰る途中でスーパーによってお酒を買いこんだ。
仕事が終わってパチンコが終われば、やっぱり晩酌をしなくっちゃね。
前まではお酒なんてカクテルしか飲めなかったけど、最近になってからビールが飲めるようになりビールを買うようになった。
「前は苦く感じて飲めなかったのにね・・・」
何か少しずつ悪い意味で変わってきているような気がする。
このままビールばかり飲んでいたら、アルコール依存症とかになってしまいそうだ。
ギャンブルをしてお酒におぼれるなんて、さすがにサイアクだよね。
それくらいわかっている。
だからお酒はあまり飲み過ぎないよう気を付けている。
ギャンブルで破産宣告をしてしまった人が、テレビに出て話している。
「ギャンブルは本当に身を亡ぼすことがわかりました。
ギャンブラーの人は、すぐに手を打たないと後悔しますよ」
ギャンブルは身を亡ぼす?
それって、借金をしてしまって破産宣告をするから?
だったら、私はまだ大丈夫だと思う。
借金はしているけど、まだ破産宣告はしていないから。
破産宣告は最後の手段。
まぁ、私も本当にまずくなったら宣告しようかと思っている。
誰にも迷惑がかかるわけでもないし、問題ないと思うんだ。
困るのは私だけだし、きっと何とかなるんじゃないかな?
誰かに迷惑がかかるって言われても、今の私には頑張れそうにない。
現実ってさ、しょせんなるようにしかならないんだよ。
だったら、私は何も望まないし期待もしない。