あれからギャンブルは続けているけれど、借金の方は順調に返済できている。
延滞も今のところはしていないし、本当に順調に進んでいる。
20か月で完済する返済計画を立てて、今は月々3万5千円ほど返済しているところ。
あまり長期間にわたって返済を続けてしまうと、その分利息も取られてしまうからちょっと厳しくなってきてしまう。
最初は全くなかった消費者金融の知識も、今では少しずつ覚えている。
総量規制があるとか、金利が安いところがいいとか。
私は即日融資にしか目が行かなくて、返済日とかそう言った部分を全く見ていなかった。
だけど、後から見直してみれば低金利だったし返済日も無理なく選べたから問題なかった。
もっとちゃんと見てから消費者金融を選んでいたら、何か違ったのかもしれない。
「このみ、明日の土曜日空いてる?
良ければ、一緒に買い物でも行かない?」
「ごめん、土曜日はちょっと用事があるんだ」
「そっか、じゃあ、また誘うね!」
私はサツキの誘いを断ってしまった。
何か用事があるわけではないんだけど、そんな気分になれなくて。
気分転換にはなると思うんだけど、サツキは買い物になると時間がかかるタイプ。
最初は全く平気だったけど、最近ではそれが正直疲れてしまう。
洋服を二者択一する時、アドバイスをしても結局違うものを選んでしまうし。
私に聞く意味がないような気がするんだよね。
それに今は借金返済しているから、自由に使えるお金が少ない。
買い物で使うくらいなら、パチンコに使いたい。
週4日通っていたパチンコを、今では週3日にしている。
一日減らすのも私にとっては大きなこと。
それでも、頑張らなきゃいけないから頑張り続ける。
退社時間になって、私はその足であのパチンコ屋へ向かった。
実はあれからナギトさんに聞いたところ、私の姿を頻繁に見かけるようになってから興味を持ったのだとか。
私がパチンコしている姿を見かけては、遠くから観察していたみたい。
でもそれって、一歩間違ったらかなり怖いよね・・・?
ナギトさんもギャンブルが好きらしく、あのパチンコ屋によく出入りしているらしい。
ショウと違って、何だか着飾らずに話せてスッキリする。
ナギトさんは借金をしていないし、ギャンブルも余裕を持ってしているようだ、
それが出来ない私を嘲笑っているかのようにも見えたが、何も言えなかった。
だって、私が辞められないのは合っているから。
何も出来ていないのに反論なんか出来ない。
「やっぱりまた来たんだ?」
「週3日にまで減らしたから、順調です!
絶対ギャンブルをやめてやるんだから」
「できるもんならやってみな!
そんな理由じゃ絶対変われないから」
「見てなさい、絶対やってやるんだから!」
そう言う私を見て嘲笑っている。
どうしてそんな上から目線なんだろうか。
そんな理由って、ショウとやり直すっていう理由じゃ私が変われないっていうの?
私は絶対にギャンブルをやめて、ショウとやり直すんだ。
誰になんと言われようとも、絶対にあきらめるもんですか。
今回ここへ来たのはパチンコをやるためだけど、節度を守ってやるつもりで来た。
借金してまでやろうなんて、もう思っていない。
私だってやるときはやるんだ!
「それよりもさ、あの男本当にやめるべきだと思うよ。
絶対、幸せになんてなれないから」
「ねぇ、どうしてそんなこと言うの?
そんなにショウが嫌いですか?」
「ああ、嫌いだね。
だってあいつ・・・いや、なんでもない」
どうして今途中で何か言うのをやめてしまったんだろうか。
何かまずいことでもあるのだろうか?
ショウの事を何も知らないくせに嫌いと言ったのかと思ったのに。
あの口ぶりからして、ショウの事を知っているみたいな感じだった。
もしかして、ショウとナギトさんは何か関係でもあるのかな?
だけど、ショウからそんなことは一度も聞いていないし、ナギトさんも口ごもった。
何か知っているなら教えてほしい。
「途中でやめるなんて、卑怯ですよ」
「何とでも言え」
彼はそう言って、私から顔をそらす。
明らかにショウの事を知っているみたいだ。
それだけ分かっただけでも、私にとっては大きなものだった。
ナギトさんは私を見て、大きなため息をついている。
言いたいことがあるのなら、はっきり言ってほしい。
隠し事をするなん・・・て。
・・・・そう言えば、私もこんな風に消費者金融を利用していたことを隠し続けてきたんだよね。
そっか・・・やっぱり気分良くないよね。
ショウが怒るのだって無理はない。
「私・・・変わりたいんです」
「え?」
「ギャンブルするのは大好きだし、続けたいって思ってるのも確かで。
だけど、誰かが傷ついたり自分が傷つくのは嫌で。
変わりたい・・・変わることが出来るなら、変わりたい・・・!」
これが私の本音。
変わることが出来るのであれば、私は変わっていきたいと強く願っている。
ギャンブルが好きなのも確かだし、出来るなら今後だって続けたい。
ストレス発散方法がギャンブルしかないから。
私は自制心が無いから借金してまでも、ギャンブルをしてしまっているんだと思う。
だけど、給料の中から余裕を持ってやりくりする分にはいいと思うんだ。
この考えは甘いのかもしれない、それでも。
変わりたい、変わっていきたい。
その為には、私がもっと自分に厳しくして自制心を育てなきゃいけない。
「たぶん、君は今後ギャンブルに溺れることになると思うよ。
君は感情的だし、目の前の事しか見えていないようだから」
今後私がギャンブルに溺れることになる?
それって、今の状態から悪くなっていくっていう事?
どんなふうにして悪くなってしまうのか、私にはまったく分からない。
だけど、彼はなぜそうなってしまうのかという事まで知っている様子だった。
私が聞いたところで絶対教えてくれないんだろうな・・・。
確かに私は感情的で、感情のまま行動してしまう事が多い。
目の前の事しか見えていない訳じゃないと思うんだけど・・・。
「俺は、君のような人間がギャンブルに溺れていくのを何度も見ているんだ。
君のように絶対にギャンブルをやめる、変わりたいんだって同じことを言っていたよ。
だけど、最後は結局借金まみれになって自己破産をした・・・君も同じさ」
一体何様なの?
今までの人達がそうだったとしても、私がそうとは限らないじゃない!
それにやって見なきゃ分からないことだってあるんじゃないの?
そもそも、ナギトさんは何者なわけ?
ずいぶん、ギャンブル依存になっている人を見てきたようだけど。
「何も知らないくせに、偉そうなこと言わないでくれる?」
「俺が付き合っていた女もギャンブル依存症だった。
借金をしてそのまま自己破産をして、挙句の果てにはその借金を残して自殺しやがった。
連帯保証人に俺の名前を勝手に記入したせいで、俺が返済することになったが今は彼女の親が返済をしている。
借金してまでギャンブルする奴なんか、生きる資格ないんだよ」
そう、だったんだ・・・。
ナギトさんには付き合っていた恋人がいて、その恋人がやらかしてしまったのか。
それだったら、私が忌み嫌われても仕方のないことかもしれない。
だって、私も借金をしてまでギャンブルをしているんだから。
面影を重ねているのかもしれない。
でも、私とその女性は全く別人だし余計なことを言わないでもらいたい。
生きる資格がないって、そこまで言わなくてもいいんじゃないかと思う。
借金がどのくらいなのか私には分からないけれど・・・。
ナギトさんが支払っていて、現在はその女性のご両親が返済をしている・・・。
もし、私が何か病気とか事故で死んでしまったら、誰かに迷惑がかかってしまうんだ・・・。
正直、そこまで全く考えていなかった。
誰かに迷惑をかけてしまうなんて・・・自分だけのことだと思っていたから。
「苦労してきたのは分かります、でも私は・・・」
「君みたいなギャンブラーにわかるわけないじゃないか。
君だって何かの拍子に借金まみれになって、ギャンブル三昧さ」
その言い方にカチンときた。
そうだよ、私は完璧にギャンブラーとして生きている。
だけど、まだ誰も傷つけていない。
ショウはギャンブルじゃなくて、借金の事で怒っているわけで。
今までの人がみんなそうだったからと言って、私も同じにされたくない。
やらなくても最初から分かり切っていることもあるけど、やってみなきゃ分からないことだってあるんじゃないの?
もしかしたら、本当に私もそうかもしれない。
それでも、やれるところまでやってみたい。
同じなんて言われたくないから、今は必死に頑張りたい。
「他の奴と私を、一緒にしないで」
私はそう言い残して、パチンコ屋を後にした。
誰だって一緒にされれば怒るに決まっている。
気に食わないが、自分がまだ完璧にギャンブルを克服できていないから偉そうなことは言えない。
ギャンブラーになってしまったのは、本当に些細なきっかけだったからこそ、なかなか抜け出せない。
でも、私が再びギャンブルにハマってしまう事を、私はまだ知らなかった・・・。