仕事も借金の返済も順調に進んでいる。
順調に進みすぎて少し怖いくらいだけど、私なりに頑張っている。
出来ることから始めて、できなさそうなことは周囲と協力しながら乗り越える。
あれから私の会社での評判は上々だった。
残業もするし仕事もしっかりしていると、周囲から信頼されるようになった。
正直、別に信頼してくれなくてもいいんだけどね。
だって信頼されるっていうのは、期待されることだから。
あいにく私には向上心なんかないから、求められても困ってしまう。
「では、今夜は小宮くんの送別会を行なおう!
出来るだけ参加してくれー!」
そうか、今夜はサツキの送別会をするんだ。
私は寄る場所があるから欠席の旨を伝えてある。
恐らく用事がなかったとしても、私は参加していなかったんじゃないかな。
それに、向こうだって私の顔なんか見たくないだろうし。
お互いの為だと思う。
マキは参加するらしいから、楽しむよう伝えた。
送別会と言っても、みんな食べたり飲んだりしたいだけなんじゃないかと思うけど。
夜に送別会が待っているせいなのか、みんなの仕事のペースがすごい。
妙にてきぱきしているような・・・気のせいかな?
その間にも、サツキは仕事をしながらも最後の荷物整理を進めている。
だけど、かわいそうとか手伝おうとは思わなかった。
「このみ、今日来ないの?
・・・友達だったのに」
「もう過去の話だし、お互いの為だって。
マキは楽しんでおいでよ」
「このみ、どこ行くの?」
「うーん、ちょっとね」
行く場所を伝えたら、絶対送別会に参加させられると思い隠した。
てきぱきと仕事をこなして、次々に片付けていく。
仕事にもすっかり慣れて、今ではバリバリ仕事をこなしている。
時間が経つのもあっという間に感じているくらい、集中力も高まっている。
生きているんだなって実感することが出来る。
今までどれだけ適当に生きていたのかわかる。
私は見事光に導かれて順調な道のりを歩んでいるが、サツキは違った。
顔つきとか大きく変わった部分はないけど、少しやせたような気がする。
子会社に飛ばされることが正式に決定したのはわかったけど、結局ショウとはどうするんだろう・・・別れるのかな?
だけど、何があっても別れないって言ってたし・・・。
まぁ、そんなことどうでもいいか。
気が付けば、とうに就業時間間近になっていた。
会社のチャイムが鳴って、仕事を終わらせた人達が両手を上にあげて伸びをする。
私も帰り支度を始めていく。
「お疲れ様です!
お先に失礼します」
「おう、お疲れ!」
「なんだよ、雪城送別会出ないのかよ~!」
「用事があるんです、すみません!」
営業の人達に言われて、私は颯爽とその場を後にした。
思っていたよりも、みんな送別会に参加するみたい。
送別会って経費でおちるのかな・・・それとも割り勘するのかな?
そんなことを思いながら、私はある店の前で立ち止まった。
そう、私が帰りに寄ったのは駅前のパチンコ屋。
昔はすぐ店内に入っていたけど、今は目の前に立ってもあまりそんな気がしない。
ただ、客の出入りのたび自動ドアが開き中の様子が見えると、入りたくなってしまう。
・・・ダメダメ!
今日はパチンコの日じゃないから、やったらいけないんだ。
そう言い聞かせて、夜の街を歩いて駅へ向かう。
満員電車って、どうにかならないものなのかな・・・毎日疲れてしまう。
駅の改札を通り、ホームへ向かうとタイミングよく電車がやってきた。
私はその電車に乗って、最寄り駅まで運ばれていく。
夜の電車に乗ると、いつも銀河鉄道を思い出す。
特に冬は暗くなるのが早いからね、なおのこと思う。
「涼しいなぁ・・・」
季節はもう秋を迎えていた。
私が生まれてから29回目の秋。
私ももう30歳を迎えようとしているんだ・・・時間が経つのは早い。
この間まで、まだ20代前半だとばかり思っていたのに。
こんな感じで、この先の時間も過ぎてしまうのかな?
そう考えると、少しだけ寂しくなった。
時間が過ぎていくのがこんな早かったら、両親と過ごせる時間も残されていることになるから。
お母さんやお父さんと過ごせるのも、当たり前ではなくなってしまう。
今では口うるさくて嫌だなぁと思っていても、いつか言ってくれなくなる。
「・・・やだな」
口出しされるのも嫌だけど、一緒に過ごせなくなる方が嫌だ。
色々考えを巡らせていると、最寄り駅について私は雪崩と共にホームへ降りた。
凄まじい人だな・・・。
でも、降りられて良かった・・・いつもひやひやしてしまう。
家へと向かって歩いていると、途中で見覚えのある人物と再会した。
そう、そこにいたのは・・・ショウだった。
どうしてこんなところにショウがいるの?
私が黙っていると、向こうが口を開いた。
「このみ、この前はごめんな・・・。
お前の話も聞かずに、本当に悪かった」
わざわざ謝りに来たの?
今更になって謝られても、どうしていいのかわからない。
こんな時、みんなはどうしているの?
許すだけでいいんだよね?
それ以外の事なんて、どうでもいいんだよね?
ショウが距離を縮めてきて、思わず私は後ずさりをした。
怖いわけじゃないんだけど、近寄りたくなかった。
そんな私を見たショウが、ショックを受けたような表情を見せた。
仕方ないじゃない、もう・・・遅いんだって。
「このみ、もう一回やり直そう。
俺はやっぱりこのみのことが・・・好きなんだ」
「ごめん、私もう好きじゃないんだよね。
そもそもさ、サツキはどうしたの?」
「サツキとは別れたんだ。
あんな多額の借金をしている奴とは、一緒に居られない」
「私も借金してるし、他に探したら?
もっといい人がいるって」
私はそう言って、その場を過ぎ去った。
今更好きとか言われても困るし、私はもう好きじゃない。
もっと言えば、わざわざ会いに来ないで、メールとか電話で言ってほしかった。
会うと色々めんどくさいし、不都合なことだって結構ある。
私が歩く後ろを、ショウが追ってくる。
めんどくさいな・・・。
後ろでまだ何かごちゃごちゃ言っている。
「このみ、やり直したいんだ!
頼むよ・・・もう一度」
「だから無理だってば。
サツキとやり直せばいいじゃない、一緒に借金返済でもしたら?」
こんなに女々しかったなんて知らなかった。
私は男らしい姿が好きだったのに、こんな姿・・・。
いつまでもついてこられると面倒だから、走ってショウをまくことにした。
家を知られているんじゃないかって?
ううん、あれから引越したからショウには分からないようになっている。
そんなに広くないけど、狭くもないしちょうどいい感じかな。
いつまでも、二人で過ごしたあの家で暮らすわけにはいかないし。
思い出とか引きずっちゃいそうだったから、覚悟を決めて引越したんだ。
逃げるかのようにしてショウをまいて、家の中へ入った。
「はぁ・・・」
今更ショウとやり直すなんて出来ない。
あの時は本当に好きだったから、いつまでも一緒に居たいって思っていたけど。
距離が近すぎてもうまくいかないんだという事を知った。
近くにいすぎて、嫌な部分が目立って見えてしまうとか、見たくないものまで見えてしまう。
付き合うなら同じ年齢じゃなくて年上の人の方がいいかもしれない。
余裕のある人との方が相性もいいんじゃないかな?
だけど、私は借金がまだ残っているから恋愛なんてまだ無理。
いや・・・恋愛はしばらくしない。
もう傷つきたくないし、相手に合わせるのも疲れてしまったから。
だから、お見合いの件もきっぱり断ろう。
親としてまだ結婚していない娘が心配なのはわかるけど、簡単に決めるのは良くないことだと思う。
「電話して伝えなきゃ・・・」
私はお母さんに連絡を入れることにした。
こういうのは、なるべく早くに断っておく必要があるから。
早めに断れば、相手だって次に進めるから。
私はありのままの気持ちを、お母さんにぶつけた。
嫌なら無理にしなくてもいいけど、責任は負わないと。
結婚できなくても知らないわよ、とまで言われてしまった。
そう言われても、今の私は結婚に全くと言っていいほど興味がない。
だから、いきなり結婚の話をされても困ってしまう。
結婚するって幸せなことだと言われているけど、なんでそう言われているんだろう?
私は何も結婚がすべてだとは思わない。
言い方は失礼かもしれないけど、そもそも、お見合い相手って大体おっさんとかでしょ。
だったら、まだ自分で相手を探した方がいいと思うんだ。