少しずつ俺の借金が大きくなってきてしまっている。
小さな積み重ねが、いつの間にか大きくなっていることに驚愕した。
あの時はすぐに返せると思いこんでいたのに。
実は、あのパチンコで当てた分は全てパチンコで使ってしまった。
もっと大きな利益が得られると思っていたのに。
やはり現実はいつだって厳しくて残酷なんだ。
どうにかしたくても、どうにもすることが出来ない。
「店もこのままじゃヤバいよな・・・。
何か手を打たなければいけない」
何か手を打つと言っても、何もいい方法なんか浮かんでは来ない。
いくら考えてもろくな考えしか浮かばないし、どれも現実味が感じられない。
今日は臨時休業という事で、店をしめ切ってしまっている。
運が良かったのか、今日予約している人はいなかったから閉めてしまった。
こんな身勝手に臨時休業を出したのは、初めてのことかもしれない。
今までは何があっても、店を開き営業していたから。
だが、今日はとてもそんな気分にはなれなかった。
店の通帳を出して確認してみると、すでに残金の桁が二つほど減っていた。
このままじゃ、さすがにまずいと思った。
何がマズいのかって、ギャンブルが出来なくなってしまう方の心配だ。
店の経営よりも、自分がギャンブルを出来なくなってしまう事の方が怖い。
「参ったな・・・一体どうするべきか」
とにかく気分転換に、競馬場とかに行ってみるか。
もしかしたら、気分が晴れるかもしれない。
俺は着替えて、早速競馬場へと向かった。
数時間して、競馬所へつき馬券を買って席に着く。
もうすぐ競馬が始まる。
片手に馬券を握りしめて、レースが始めるのを待つ。
この瞬間がたまらないんだよな。
少しずつ賑やかになってきて、俺はすっかり忘れてしまっていた。
店の経営をどうしていくのか。
レースを夢中になって眺めながら、自分が購入した番号を必死に応援する。
そうすれば、幾らか金が手に入る。
必死に応援していいところまでいっている。
俺の予想通り、6番3番4番の順になった。
予想通りで、俺は興奮してその場で立ってしまった。
このまま走り続けてくれたら、俺の予想通りという事で、かなりの大金が手に入る。
「頑張ってくれ!!」
俺が応援していると。その3頭がゴールへと真っ直ぐ向かって走っていく。
いいぞいいぞ!
この調子なら、俺、また買っちゃうな!
そう油断していたからいけなかったのかもしれない。
・・・嘘だろ?!
いきなり8番の馬が追い上げてきて、最後の最後で4番の馬を抜いて3位になってしまい、続いて4番の馬がゴールした。
俺の手は震えていて、周囲も怒りながら馬券を床に捨てている。
悔しかったのは俺だけじゃない。
何て言う事なんだ・・・。
「あれ、俺何しに来たんだったか?」
ふと自分がここへやってきた目的を忘れてしまった。
どうやってここまで来たのか、冷静になって考えてみる。
・・・・そうだ!
店が赤字経営になってしまって、ギャンブルがもうできないかもしれないという事で、この競馬所までやってきたんだった。
しかし、結局いいアイデアが浮かぶどころか負けてしまった。
何のために来たんだろうか。
しかも、先程つぎ込んだ金は店の運営費からくすねてきたもの。
俺って、本当にダメな奴なんだな・・・。
仕方なく店へ戻ると、何人かスーツを身にまとった人達が来ていた。
あれは一体?
「あなたが神宮寺春輔さんですか?」
「ええ、そうですが?」
「今からこちらのお店を差し押さえさせていただきます。
理由はご存知だと思いますが、返済をしっかりしてもらえてないためです」
「ちょっと待って下さい!」
「待つことは出来ません。
決められたルールですから、守ってもらわなくては困ります。
それにもう私たちは待ちましたよ」
一方的過ぎて、俺は黙る事しか出来なかった。
確かに返済をしていなかった俺も悪いが、こんなことをしなくてもいいじゃないか。
こんなことをされたら、余計払いたくなくなってしまうじゃないか。
じゃあ、なにか?
明日から、もう店を開店させることが出来ないっていう事なのか?
予約までは行っていたと言うのに。
たとえ、俺がここで交渉しても意味がないだろうな。
聞く耳を持ってくれないだろうし、俺が悪いんだから。
ただ、まだ店だったからよかったかもしれない。
給与差し押さえだったら、とんでもないことになっていたかもしれない。
明日から俺はどうすればいいんだろうか?
「マズったな・・・」
今まで青野が足を運んでくれていたが、なんて説明すればいいんだ?
本当のことを言えば、青野は確実に怒るだろう。
うまくごまかしたくても、これではごまかしの仕方が分からない。
それに何を聞かれても、俺は正確には答えることが出来ない。
真実を話せば、どうなるのか分からないから。
せっせとスーツを着た連中が店から去って行く。
仕方ない、店はもう潰すしかない、
借金の返済には何年もかかる。
そこまでして自分の店を取り戻したいとは思わない。
仕方ない、諦めるしかないな。
俺は店内へ行き、マジックを取り出した。
「当たり障りのない書き方をしなければ・・・」
そう思いながら、俺は貼り紙を作成した。
書いたのは“閉店の知らせ”という貼り紙。
誠に勝手ながら、本日をもって閉店させていただきます。
そのように書き記した。
今まで通い続けてくれた人には申し訳ないが、もうそうするしかない。
俺はその貼り紙を、店の目立つ場所に貼った。
ここなら誰でも見えるから分かってもらえるだろう。
店を失ったという実感がなく、ただもう営業することが出来なくなってしまったことでギャンブルが出来ないという悲しみの方が大きい。
今後どこから資金を調達すれば良いのか分からない。
すると、その時人の気配を感じて振り向くと、そこには・・・藤崎孝正<フジサキ タカマサ>の姿があった。
「よう、神宮寺。
あれ、店閉めるのか?」
「ああ、借金をして返済をしっかりしていないからな」
「それなら、今後はギャンブルの事だけを考えられるじゃないか!
良かったな、店がなくなってさ」
「確かに、店の事ばかりかんがえていると気分がいいかもしれないな」
藤崎とは小学校や幼い頃からに友人で、よく一緒にふざけた中だった。
こうして会うのは久々ではない。
ここ数年になってから、やたら会うようになってギャンブルを俺に進めてくれたのも藤崎なんだ。
最初はギャンブルなんて興味がなかったが、藤崎からギャンブルについて教えてもらい、気が付けばどっぷりつかってしまっている。
一緒に競馬やパチンコ屋へ行き、その楽しさを教えてもらった。
藤崎と出会ってから、俺は少しずつ変わってきた。
ギャンブルをたくさんするようになって、一気に大金を稼ぐことも出来るようになった。
普段はきちんと働いて給与をもらっているが、ギャンブルはその一回だけで大金を手に入れることが出来るから、よくゲームセンターにあるコイン落としゲームをやったりもしている。
やっぱりギャンブルの方がいいけど。
「神宮寺、今度会う時にはいい場所を教えてやるよ。
たった一晩で、大金が手に入る場所があるんだ」
「本当か?
今はまだ教えてくれないのか?」
「ああ、今はまだその時期じゃないんだ。
次会う時には教えてやるから、心の準備をしておけよ?」
一体、何を教えてくれるのか分からないが、楽しみだ。
たった一晩で大金が手に入る、そんなうまい話があるのか?
パチンコや競馬以外にも、何か楽しいことがあるなら、是非とも教えてもらいたい。
今は教えられないという事は、まだ準備中といったところだろうか?
その時が来たら教えてくれると言っていたし、今日はもう少しパチンコを打ってから帰ろう。
せっかくの休みだから、充実した時間を過ごしたい。
パチンコ台に札を入れて、次々に玉を打ち出していく。
すると、再びフィーバーになってパチンコ玉が溢れんばかりに出てきた。
すかさず俺はその玉を全てケースへと移しなおしていく。
今日はやっぱりツイている!
俺は早速換金をして、大事にしまった。
こんな大金は初めてだから、大事そうにバッグの中に入れて逃げるかのようにパチンコ屋を後にした。
「他の場所でも勝てるだろうか?」
そう思い、俺は次なるパチンコ屋へと向かった。
相変わらずにぎやかでガヤガヤしている。
この感じが昔嫌いだったが、今ではガラッと変わり好きになった。
分かるだろうか、自分の嫌いだった人が急にいい人に感じて打ち解けていくような感覚。
当たりそうな台を探して、俺は再びパチンコで一獲千金を狙っていく。
一攫千金は、男の憧れと言うか夢だからな!