ギャンブルをしている間、何とも言えない気持ちに駆られる。
自分の部屋にスロットを置いて遊びたいくらいまでに、俺はギャンブルに執心だった。
ギャンブルさえあれば、他に何もいらない。
地位とか名誉とか、そんなものが下らなく思えてくる。
パン屋の仕事もそろそろ嫌になってきたな。
仕事内容はいいと言うか、仕事すらしたくない。
働かずにただひたすらに、ギャンブルをして楽しみたい。
人間関係も面倒だし、今月末でパン屋を辞めてしばらくは借入をして過ごそうか。
そう思い、俺は銀行へと連絡を入れた。
「あの、30万円借入したいんですが」
『申し訳ございませんが、お客様はご利用できません。
ご返済をされていないので、新規借入は出来ません』
「あと30万円だけでいいんです」
『申し訳ございませんか、借入致しかねます』
俺は頭に来て、その電話を一方的に切ってしまった。
たった30万円だけでいいと言っているのに、分からない奴だな・・・!
消費者金融も銀行も利用出来なくなってしまった。
他社から借入することも出来るが、審査に通れる可能性は低いだろうな。
すでに320万円の借金を抱えているし、返済をしていないから。
俺だって返済できるものならしたいが、そのためには大金を手に入れなければいけない。
ギャンブルしたくても残りの金だけでは、ギャンブルを楽しむことが出来ない。
これは俺にとっての死活問題だ。
どうするべきなのか、考えろ・・・考えろ!
そういや、藤崎はどうしているんだろうか?
聞きたくても、藤崎の連絡先を知らないから聞けないんだよな。
「これからどうするかな・・・」
俺はあれこれ考えながらパチンコ屋で、パチンコ台をずっと打っていた。
裏カジノと比較すればこっちの方が劣るけど、こっちはこっちの良さがある。
合法だからそんな大した金額は手に入らないけど、何も入らないよりはいい。
俺は何枚もの千円札を入れながら、ただひたすらに打ち続ける。
一向に勝てる気配がないが、やっているうちに勝てる気がする。
時刻はすでに午後18時を過ぎていた。
そうか・・・、俺はあれからもう4時間近くパチンコをしていたのか。
それなのに、時間の流れが感じられない。
何だかおかしくなってきているような気もしなくない。
「よう、神宮寺!
またパチンコやってるのか?」
「おう、藤崎じゃないか。
そういや、藤崎ってさどこで資金調達してるんだ?」
「俺は、消費者金融も銀行も限度額いっぱいで使えないんだ。
だから、今は闇金から金を借りてるんだよ」
「闇金?!」
「声がでかいんだよ、声が!」
つい、大きな声を出してしまった。
消費者金融や銀行が使えないのは、俺も全く同じことだ。
しかし、まさか藤崎が闇金を利用しているなんて知らなかった。
闇金ってすぐに金を貸してはくれるけど、違法的な金利で返済を求めてくる。
いくらギャンブルが好きでも、闇金だけは利用したくない。
ただでさえ返済することが出来ていないと言うのに、闇金なんて無理な話だ。
そういや、先日藤崎が見知らぬ男と話していたが、それは闇金の取り立て屋だろうか?
立ち入ったことは聞いてはいけないと思い、俺は黙り込んだ。
人には聞かれたくないことがいくつかある。
何も俺から触れなくても、話したくなったら藤崎から話してくれるだろう。
「神宮寺も金に困ってるんだろ?
だったら、闇金に頼んで貸してもらえよ。
すぐ貸してくれるから、好きなだけギャンブル出来るぞ?」
闇金なら今すぐ金が手に入る。
無審査の所もあるし、即日融資をしてくれるからすぐギャンブルを楽しめる。
そう思うと、すごく魅力的に思えてきた。
闇金といってもちゃんと返済出来れば、何も怖くないよな?
だが、まだ一歩勇気が出なくて俺は考えさせてもらう事にした。
藤崎はにこにこ笑いながら、俺をまじまじと見ている。
それから、闇金の魅力について藤崎からたくさん聞かされた。
話を聞いている限りでは、闇金も使い方によっては便利なんだと分かった。
申し込みをする前に、少し調べてみるか。
「神宮寺、ギャンブル楽しめよ!
俺はまた裏カジノの方に行くからさ」
「ああ、またな!」
そう言って、藤崎はパチンコ屋から出て行ってしまった。
確かに闇金から金を借りたら、ギャンブルすることが出来る。
いちいち我慢しなくていいし、好きなだけ楽しめるんだ。
そう思うと何だか闇金も悪くないような気がしてきた。
俺は、早速携帯電話から調べてみることにした。
色々な情報が出てきて、俺は食い入るかのように一つ一つ確認していく。
名の知れない場所ばかりだが、困っているときに金を貸してくれるならどこでもいい。
近いうちに闇金へ頼ってみるとするか・・・!
――★《Change To Kotori Side》
仕事帰りに神宮寺くんを見かけて、またついてきてしまった。
やっぱり、どうしてそんな風になってしまったのか環境の変化が知りたいと思ったから。
パチンコ屋に入って、もう何時間も打ち続けていると言うのに、当たる気配がなく本人も気が遠くなっているのか、一点を見つめている。
当たる気配がないならやめて、さっさと家に帰ればいいのに。
ギャンブルばかりしていると、本様にダメ人となってしまう。
才能があると言うのに、ギャンブラーとしてダメになっていく姿を私は見たくない。
すると、神宮寺くんのもとに何者かが近寄り声をかけているのが見えた。
今回は何を話しているのか聞き取れるように、すぐそばまで近寄っていた。
声をかけた男が何者なのか、その顔を確認して私は言葉を失ってしまった。
神宮寺くんに声をかけていたのは、藤崎くんだった。
藤崎くんとも、高校時代からの幼馴染で私たちはよく3人でつるんだりしていたが、いつしか藤崎くんが輪から外れてしまい、違う人たちと絡み始めた。
その理由は私にも、神宮寺くんにもわからない。
「よう、神宮寺!
またパチンコやってるのか?」
「おう、藤崎じゃないか。
そういや、藤崎ってさどこで資金調達してるんだ?」
「俺は、消費者金融も銀行も限度額いっぱいで使えないんだ。
だから、今は闇金から金を借りてるんだよ」
「闇金?!」
「声がでかいんだよ、声が!」
消費者金融も銀行も限度額いっぱいで使えない?
限度額って、個人の収入によって変わってくるけれどそんなに低くないはずなんだけど。
それがいっぱいになっちゃったって・・・。
それだけ多額の借入をしてしまっているという事なのかもしれない。
それでギャンブルが出来なくなるのならしなければいいのに、どうしてそこまでしてギャンブルをしたいと思うのだろうか。
私だったら、やめると思うけどギャンブル依存症に陥ってしまったら、そう考えられなくなってしまうのかもしれない。
だからと言って、闇金に手を出すなんて、藤崎くん何を考えているの・・・。
闇金は違法な金利手数料を取るから、絶対に手を出してはいけないと言われている。
一度でも手を出してしまうと、勧誘メールや電話が鳴り響いてしつこいらしいから。
それなのに、藤崎くんは手を出してしまったなんて・・・。
「神宮寺も金に困ってるんだろ?
だったら、闇金に頼んで貸してもらえよ。
すぐ貸してくれるから、好きなだけギャンブル出来るぞ?」
藤崎くん、何を言っているの?
闇金を勧めるなんて、そんなの友達のする事じゃない。
普通はギャンブルなんてやめなよっていうのが友達だと思う。
そのセリフではなくて、ギャンブルを勧めている。
一体何を考えているのか、私には理解できない。
もしかして、神宮寺くんをギャンブルにそそのかしたのは、藤崎くんなの?
藤崎くんがパチンコ屋から出ていく後を追っていく。
そのまま追いかけていくと、いつか来たあの雑居ビルの方向へと向かっている事に気が付いた。
「藤崎くんだったのね、神宮寺くんをギャンブルへそそのかしたのは」
「なんだ、青野か。
俺は唆したつもりなんか無い。
あいつが勝手にはまっただけだろ?」
「どうして、神宮寺くんにギャンブルなんか勧めたのよ。
おかげで彼、お店を失って借金までしているじゃない!
責任取れるの?卑怯じゃない」
「あいつさ、いつも俺より成績が良くて実践も俺より上でさ。
優等生面して俺を見下してイライラするんだよ!
だから、ギャンブルに誘ってやったのさ!卑怯も何もないんだよ!
店潰して借金まみれになって・・・あいついいザマだな、っははは!!」
もしかして、私達から距離を取ったのもそれが理由だったの?
成績が良くて実践だって、確かに藤崎くんや私よりも上で良かった。
だけど、一度も見下されたことなんかないし、藤崎くんのことも悪く言っていない。
一方的に被害妄想を抱いている。
お店を失って借金まで作ってしまって、そんな姿を楽しむなんて最低!
神宮寺くんは、きっと藤崎くんの目論見なんて知らない。
―バチンッ!!
私は感情が高ぶってしまい、そのまま藤崎くんの頬を思い切り叩いた。
こんな人なんかにこれ以上、神宮寺くんの未来を好きになんかさせてやらないんだから。
見ていなさいよ、私が何としてでも食い止めてやるから。