とうとう今日が最後の出勤日。
これでこの会社から解放されて自由に行動することが出来る。
私が待ち望んでいた自由。
あと7時間頑張ればすべてが終わって好きなことが出来る。
私はそんなことを思いながら仕事を進めていくが、何だか今日ははかどらないな。
その理由は最終日だから気が抜けている事だけではなく、例のカジノディーラーの求人会社から返信が来たからだ。
私が応募したのは3ヶ所だけど、なんと全てから返信が来た。
最初はどこからも返信が無いんじゃないかって思っていた。
だって私は今まで何度も転職を繰り返しているし、あまり良いイメージが無いんじゃないかと思っていたから。
転職ばかりしている人間は雇ったとしても、またすぐに辞めるんじゃないかと判断されてスルーされるのが一般的だと思う。
それなのに全てから返信が来るなんて、正直びっくりしている。
「あずさ、今日で仕事納めだね。
もう一緒に仕事出来ないのが寂しいな」
「仕事は一緒に出来ないけど、遊びに行ったりは出来るじゃない。
これからも真子とはちゃんと連絡とるから、そんな表情しないで」
「うん、絶対だよ?」
真子が寂しそうな表情をしていたけど、すぐに笑顔を見せてくれた。
もう一緒に仕事することはなくなるけど、プライベートだったらいつでも会うことが出来る。
だからそんな寂しそうな表情をしないでほしい。
友達だから大切にしたいし、悲しい思いもさせたくない。
それぞれ仕事に戻って、作業を再開する。
今までつまらないと思っていた仕事は、最後までつまらないと感じた。
ありきたり過ぎて何とも達成感がない。
最後の出勤日という事は明日からはひとまず休みが続く。
つまり、明日の事を気にして早く寝る必要もないという事だ。
そう思うとすごく気が晴れやかになって、精神的な負担やストレスが大いに減った。
あと少しだから頑張れる。
仕事が終わったら何をしようか、今から楽しみ。
実はカジノディーラーの求人に応募してから、ポーカーがやりたくて仕方がない。
だけど、翌日がいつも仕事だったからなかなか夜遅くまで起きていることが出来なかった。
だけどこれからは関係ないから、ギャンブルをする時間を作ることが出来る。
「もうすぐか・・・長かったな」
就業時間まであと数十分。
解放されるまでのカウントダウンは本当に長く感じるものだよね。
面白い時や楽しい時はあっという間に時間が過ぎてしまうのに、本当不思議。
仕事もだいぶ片付いたし、あとは雑務だけで終わりそうだ。
自分の身の回りを整理整頓しながら、雑務をこなしていく。
気が付けば窓の外は暗くなっていて、夜の景色へと変わり始めていた。
季節の移り変わりもあっという間に感じる。
就業時間の合図である鐘が鳴って、荷物をまとめてデスクの上を綺麗にしていく。
最初このデスクに荷物を置いたときのようにキレイだ。
「今までお世話になりご迷惑をお掛け致しました。
それでは失礼致します」
そう大きな声で言ってから、深々と頭を下げた。
挨拶くらいはしっかりしなきゃいけないと思うから。
部長など上の人物たちが飲みながら今までの事を振り返ろうと言いだしたが、私ははっきりと断った。
話すことなんて特にないし、ギャンブルを優先したいから。
私はオフィスから出て夜の街へと繰り出した。
夜だから街は明かりに包まれていて、都会の雰囲気をさらに高めていた。
よく東京は近未来のような感じだと外国人が行っているが、その気持ちは私にもよくわかる。
特にゆりかもめから眺める夜景は、本当に近未来の世界に見える。
あの付近には大きなビルが連なっているから、明かりが灯されていて近未来のように見える。
夜の街へ繰り出した私は、早速裏カジノへと向かった。
裏カジノのある場所を知っているのは、昔良くない連中と絡んでいたから。
「ボディチェックをいたしますので、バッグはこちらへ」
入り口で厳重なチェックを受けてから、中へと足を踏み入れる。
金属探知機や盗聴器などが無いかどうか確認するのは当たり前のことだ。
何か不正行為をされたら大変だから。
パチンコは磁石を使って不正行為に及ぶものが多いため、厳重にチェックしていると聞いたことがある。
中へ入っていくと賑やかで、ガラの悪い人間は一人もいなかった。
何て言うかお金に余裕のある人物たちが集まっていると言うか、私のような者は本当に数えられる程度しかいない。
パチンコ、スロット、ルーレット、トランプゲーム、他にも多くのギャンブルが用意されている。
久々に来たから何をしようか迷ってしまう。
久々だから、まずはルーレットから始めてみようかな?
ルーレットはただ色と数字を予想して当てればいいだけだから、至って単純明快なギャンブルなんじゃないかと思っている。
それに、ギャンブルをするからにはディーラーをちゃんと見ておきたかった。
どんなふうにして進めていくのかとか、振る舞い方とか。
私はすぐに参加をして、赤の16番にBETした。
今までの結果を見ていると、赤の方がよく出ているし番号も高い物ばかり出ているからそろそろ低い番号が出るんじゃないかと思って。
ディーラーが玉をホイールへと放り込み、玉が軽やかに転がっている。
「来い、黒の31番・・・ッ!!」
「いいや、来るのは赤の27だ!!」
周囲が盛り上がり会場内が強い熱気を帯びている。
私も一緒になって盛り上がり、自分の選んだ番号に玉が止まることを祈る。
そんな私達の気持ちも知らずに、玉はホイールを転がり続ける。
そして少しずつ転がる速度が落ちてきて今にも止まってしまいそうだった。
見守り続けていると、玉がある番号の上でぴたりと止まった。
玉が止まった番号は・・・赤の23番だった。
それは私がBETした2つ左隣の数字で何とも言えない気持ちに襲われた。
何だ・・・この微妙に惜しい感じは・・・逆に納得がいかないと言うか腑に落ちない。
周囲もブーブー文句を言っているが、私はそこまでではなかった。
賭け金も少なかったし、そこまで期待などしていなかったから。
ルーレットはやっぱり自分には不向きなんじゃないかと思う。
もうルーレットはこれで終わりにして、次に行こう。
よく見ると、奥のテーブルではトランプゲームが繰り広げられている。
「えっ!!」
そのテーブルではバカラが繰り広げられていて、思わず私は飛びついた。
バカラって単純だけど奥行きのあるゲームだと私は思っている。
簡単に言ってしまえば2枚のカードを引き9に近い方が勝ちというもの。
10・11・12・13のカードは0としてカウントされるようになっている。
そして、引いたカードが4と8の場合は両方を足して12になり右側の一の位が引いたカードの数字とになる。
また、引いたカードの合計が0~2の場合は3枚目のカードを引かなければならないのだ。
バカラはカジノの中でも一番人気のあるギャンブルゲームとなっている。
ルールが簡単だからすぐに覚えられるし、ドキドキ感も味わえるからとても楽しい。
バカラかぁ・・・懐かしいな。
「あっ!!」
バカラが繰り広げられている付近では、私の好きなポーカーが始まっていた。
私はその場から早歩きでテーブルまで向かった。
懐かしいし何だか勝てるような気がする!
このゲームが終わったら積極的に参加してみようかな・・・?
ゲームを見守っていると、なかなか進まず少しずつ飽きてきてしまった。
もっとこんがらがるような感じを期待していたのに、ツウ・ペアやスリーカードばかりで大きなことは何も起きない。
何か大どんでん返しがあると思って期待してたのに。
ちなみに、ポーカーで一番強いのはロイヤルストレートフラッシュだ。
次にストレート・フラッシュ、フォア・カード、フルハウス、フラッシュ、ストレート、スリーカード、ツウ・ペア、ワン・ペアと続く。
昔結構やり込んでいたからポーカーのルールはバッチリ分かっている。
「ストレート!
今夜は俺の勝ちだな!」
「それはどうかな?
フラッシュだ!!」
「なんだと?!
どうして・・・フラッシュだと?!」
ストレートで自分の勝ちだと思っていた男性が、別の男性にしてやられた。
フラッシュはストレートよりも強いから、逆転されてしまった。
ポーカーって油断することが出来ないから楽しいんだよね。
自分が勝ったと思ったらこんな風にして逆転される、これがポーカーの楽しみどころ。
ゲームが終わり、一人抜けることになって私が参加できることになった。
さて、私にはどんなカードが配られてくるだろうか。
参加チップを1枚出して、一人5枚ずつ配られて余ったカードはストックとして中央に置かれる。
最初に誰もビットしなかったからコールかレイズを選んでゲームを進めていく。
コールとは、先のプレイヤーと同数のチップを出してゲームを続けること。
そして、レイズとは先のプレイヤーよりも多いチップを出して、せり挙げる事で一人一回しか出来ないと決まっているのだ。
コールを選択しながら皆でカードをそろえていく。
不要なカードを伏せて目の前に差しだし、親から新しいカードを捨てた分だけもらう。
今回は皆様子見という事もあって、ビットしているチップが少ない。
私の手札のカードはツウ・ペアでまったく強くないから宣言をためらってしまう。
宣言するほどではないから黙っていると、別の男性が声をあげた。
「フルハウス!!」
マジか・・・フルハウスって結構強い。
誰も宣言するものが居なくて、チップはすべてその男性のものになった。
負けたと言うのに悔しさが全くなく、本当に懐かしく感じていた。
そうそう、ポーカーってこんな感じだったよね。
少しずつ感覚を取り戻してきて、チップも多くビットするようになった。
感覚をつかみ取れば、あとは運が巡ってくるのも待てばいいだけだ。
それにしても、本当にギャンブルって楽しいから止まらないんだよね。
明日からは仕事がないから、まだギャンブルを続けることが出来る。
久々のポーカーに熱くなりながら、冷静に作戦を立てていき頭の中でイメージする。
今度こそ、絶対に負けないんだから!