本当に退屈過ぎて何とも言えない日々を送っている。
毎日同じことの繰り返しで、実に下らない。
いつも人間関係が原因で仕事を転々としているのは、私にも原因があると思う。
だけど、それ以上に周囲がだらしなかったり自分の意思を持たないから衝突してしまうんだ。
こっちだって衝突したくて衝突しているわけではない。
根本的に分かりあう事は無理なんだろうなって思って諦めているからいいんだけどね。
数年前から私はギャンブルにハマり始めて、現在ギャンブラーとして業界では名が知れてきている。
そこら辺にいる中途半端なギャンブラーとは違って、私はしっかりしている。
ギャンブラーにしっかりも何もないかもしれないけれど、他人と比べればましな方。
だって、私は感情だけで行動したりしないし、八つ当たりをする事も無いから。
理性のあるギャンブラーというか。
大学生の頃、友人のヘルプであるカジノのアルバイトを担ったことがある。
確か、私が担当していたのはルーレットでよくホイールに玉を転がしたりしていた。
だけど、私が一番好きなギャンブルはポーカー。
トランプゲームの中でもあれが一番楽しくて、ワクワクして盛り上がれる魅力あるゲームだと思う。
大富豪とかあんなのつまらないから興味ないし、ルーレットもあまり楽しいとは思わない。
やっぱりポーカーでしょ。
「小鳥遊、今日空いてるか?」
「何かあるんですか」
「皆で飲みに行こうって話になってさお前も・・・どうかと思って」
男性社員が気まずそうにして言う。
明らかに来てほしくなさそうな言い方をするから、本当に分かりやすかった。
嫌だったら誘わなければいいのに、意味が分からない。
飲み会なんて参加したい奴だけが参加すればいいじゃないか。
どうせ、皆誘っているのに私にだけ声を掛けないことが嫌だったんだろう。
周囲の目を気にしているからこその行動。
他人の目なんか気にしすぎてどうするの?
それで何か変わるわけ?
私は行かないとはっきり断った。
「二度と声を掛けていただかなくて結構です。
どうぞご勝手に楽しんできたらどうです?」
私は冷酷に言い返して自席へと戻った。
二度と誘ってくれなくていい、かえって面倒くさいから。
気を遣うのも嫌だし、大して親しいわけでもないんだし。
楽しみたいだけ勝手に楽しめばいい。
いちいち私を巻き込むな。
すると、真子が私の元へやってきた。
何だか不服そうな表情をしながら私の方へやってきて口を開く。
「ちゃんと付き合いは大事にしなきゃ駄目だよ!」
「だって、あいついかにも私には来てほしくない言い方だったから。
私だってバカとは付き合いたくないし、時間の無駄だもん」
「もう・・・皆あずさの事誤解してるんだよ」
「別に今のままでもいいよ、何も困ってないし」
誤解も何も私はこういう性格だから仕方がない。
別に理解してもらおうなんて思っていないし、思う事も無い。
社内の付き合いが大事と言うのは少しだけならわかる。
でも、会社ってさ仕事をする場所であって仲良しこよしする場所じゃないでしょ。
ある程度の信頼関係とか親しい関係は必要だと思うけれど、この会社の人間たちとはそうなりたいと私は全く思っていない。
ああ言えばこう言うというか、気に入らない相手を寄ってたかって責めるあの姿勢が気に入らない。
簡単に言ってしまえばガキなんだよね、ガキよりもガキ。
精神的に幼いまま大人になってしまったせいで、こんなろくな人間にならなかった。
感情的に行動されるのが一番ウザったいし目障りなんだよね。
「あずさ、お父さんはどうし・・・」
「ごめん、あいつの話はまだしたくないんだよね。
それよりもさ、真子は今後どうするの?」
私は話題を変えた。
父親の話なんかしたくなかったし、思い出すだけで気分が悪くなる。
それに私はあいつを父親だなんて認めた覚えはない。
あいつは父親として、一人の人間として最低な奴だから。
連絡も取れなくしたし、血縁関係も切ってしまったからもう家族じゃないわけだし。
真子はこの会社に勤めてお金を貯めたら、自分の店を持つことが夢だと話してくれた。
雑貨屋を開きたいと話す真子はすごく楽しそうで、見ているこっちまで気持ちが伝わってきた。
ちゃんと夢を持っているっていいな。
私にはこれといって夢なんかないから、転職ばかりしているのかもしれない。
何かやりたいことを見つけることが出来れば、転職なんかしなくてすむのかもな・・・。
「あずさは何がやりたい?
お店開くとか、何かないの?」
「私さギャンブル好きだから、ギャンブラーとして活躍するのもアリかなって。
今の会社つまらないからそっちの仕事につこうかな」
「ギャンブルなんて良くないよ!
いつからギャンブルなんかやってたの?!」
「あれ、言ってなかったっけ?
もうだいぶ前からやっているけど楽しいよ」
そう言えば、まだ真子には話していなかったっけ?
ギャンブルをしていると話した途端、真子の顔色が変わった。
どうしてギャンブルってこんなに毛嫌いされるんだろう。
ゲームにお金が絡むことがそんなにいけない事なのだろうか?
宝くじだってギャンブルの一種みたいなものなのに、どうして向こうは正当化されてしまうのか分からない。
真子にいくら注意されようとも私は全く辞める気などない。
ギャンブルは私の楽しみであり、ストレス解消行為でもある。
それを奪われてしまったら、私はストレス死にしてしまいかねない。
それに急にギャンブルを辞めてほしいと言われても、簡単に辞めることなんかできない。
長年かけて染み込んだ汚れを簡単には落とすことが出来ないのと同じで、長年続けてきたギャンブルはそう簡単に体から抜けない。
「あずさ、ギャンブルは身を亡ぼすって言われてるんだよ。
急に辞めろとは言わないから、少しずつ断ち切って行こう?」
「悪いけどギャンブルを辞める気はないの。
私の楽しみであり、ストレス解消でもあるから・・・ごめん」
「あずさ・・・」
真子が悲しそうな表情をしている。
そんな表情にさせたかったわけではないのに、ごめんね。
暫く真子と話してから、私達は仕事に戻った。
仕事をこなしつつも、私は退職届を作成した。
やっぱりこの会社は辞めて、ギャンブル関係の仕事につこう。
そっちの方が今よりもずっと楽しくて充実した日々が送れるだろうから。
もうこんなくだらない過ごし方なんてしたくないんだ。
退職届は短めにありきたりなフレーズを並べておけばいいや。
どうせ処分されるんだしね。
真子には今夜伝えることにして、退職届を作成してしまおう。
面倒なことは早く片付けてしまった方がすっきりするから。
「なんだお前、仕事辞めるのか!
嫌な顔見なくて清々する、ありがとな消えてくれて」
やってきたのは、やはり郷倉だった。
またこいつか・・・前に関わるなと言ったはずだが、こいつ忘れたのか?
役立たずでバカだと思っていたが、まさかここまでひどかったとは。
人間としてヤバくないか?
私は無視して作成し続けていくが、べらべらしゃべって邪魔ばかりしてくる。
さすがにイライラしてきた。
作成し終えて封筒の中に文書を入れて、封を糊付けして閉じる。
これで退職届は完璧だ。
任されていた仕事も全て終わらせてあるし、これで定時には帰ることが出来る。
まだべらべらしゃべっている郷倉を冷酷な眼をしてじっと眺めた。
良く動く口だが、営業の時にはさぞかし役立たずなんだろうな。
「前に関わるなっていたこと忘れるほど、お前の脳は物覚えが悪いらしく、おまけに正常に働いていないらしい。
いっそのこと命落として使える部分を待ち望んでいるドナーに提供して、人様の役に立ったらどう?」
「・・・お前こそ!!」
「いや、私はお前の話をしてるんだよ。
生きていてもまともに仕事しない、人の嫌がる事ばかりするなら。
臓器提供とかしてドナーになった方が、よっぽど人の為になっていいと思うけど?
さぞかし喜んでもらえるだろうと思う」
私が冷酷に言うと、郷倉が青ざめた表情を見せた。
想像して怖くなった?
誰かを苦しめるくらいなら、いっそ死んで使える部分を提供した方がいいと思う。
だって人を傷つけるって罪深きことだと思うから。
幼い頃何度も思った、暴力や嫌がらせをする連中が皆消えていなくなればいいのにって。
視力を失ってしまった人、事故などで足や腕を切断してしまった人、臓器に異常があって提供者を待ち望んでいる人がこの世界にはたくさんいる。
そういった人達に臓器や角膜などを無理矢理提供してしまえばいいのにとも思った。
どうしてそんなひどいことを思っているのかって?
それは私が・・・虐待されていたから。
母親と父親、私の三人で楽しく毎日を過ごしていたのに、その幸福は長く続かなかった。
毎日笑い声が絶えない家庭だったんだ。
温かい食卓を家族で囲んで、小学校の運動会には必ず来てくれて昼食を一緒にとった。
授業参観にも来てくれたし、誕生日も盛大に祝ってくれた。
でも、母親は身体が生まれつき弱くてたちの悪い病気に侵され、そのまま亡くなってしまった。
それからだ、父親が酒と女に溺れて私に暴力を振るってきたのは。
虐待を毎日されて私も最初は耐えていたんだ、いつか解放されるって。
だけど、エスカレートするばかりでとうとう私は壊れてしまった。
壊れてから私はこんな性格になり、誰も信じられず人間を忌み嫌うようになったのだ。