とうとう僕は消費者金融に手を出してしまった。
ギャンブル好きでも僕はそれだけは絶対にしないようにしていたというのに。
借りるのが怖いという気持ちもあったし、返済も出来ないんじゃないかって考えて避けていた。
だけど、意外にも簡単に金を借りられたし、返済だって勝てばいくらでも出来るから問題ないと思えた。
僕はあれからずっとギャンブルの事ばかり考えて、仕事をするようになった。
早くパチンコをやりたくて気が気じゃなかったし、集中力もなんだか低下してきた気もする。
僕と同期の彼は、相変わらずテキパキ仕事をこなして周囲から注目を浴びている。
どうして僕は彼と同じくらい仕事が出来るのに、こんな感じになってしまったのだろう。
だめだ・・・イライラして落ち着かないし、イライラすればするほどパチンコがやりたくなる。
最近の僕はどうかしているんじゃないかと思うくらいに、ギャンブルの事を考えている。
「どうかされました?」
そんな僕に声を変えてきたのは、この間の事務職の彼女だった。
また・・・僕に話しかけてくるのはいいが、大した話が無いのならやめてほしい。
ただでさえ、今はこんなにもイラついているというのに、見て分からないのか?
僕は大丈夫です、といって冷笑しその場を去った。
今日こそは絶対に勝ってみせる。
仕事が終わり、僕は早速パチンコ屋へと向かっていった。
さて、今日はどのパチンコ台で打とうか・・・ちゃんと選んで儲けなくちゃいけないからな。
台を決めていつものように打ち始めていくが、相変わらず当たりが出ないからまたイラついてしまう。
せっかく3万円借りたっていうのに、たった15分で2万円もなくなってしまった。
借りるまで時間がかかったわけではないけれど、こんなあっという間に消えてしまうものなのか?
あと1万円しか財布に入っていないから、これを使ってしまえば今夜の夕食がなくなる。
それでも気持ちが抑えられなくて、結局使ってしまった。
「今日こそは勝ってくれ!」
そう言って、台を見つめるが当たりが出る気配が感じられない。
そして、僕の思いもむなしく全てなくなってしまい脱力感に襲われた。
一気に3万円がなくなってしまったが、もしかしたら次は勝てるかもしれない。
今まで負け続けてきたんだ、そろそろ勝ったっていい頃じゃないか?
だが、僕の手元にはもう一銭もお金が入っていないから、パチンコが出来ない。
この間、簡単に金を借りられたんだから今回だって前みたいに借りればいいじゃないか!
僕はそう思って、急いでこの間借りた消費者金融の無人窓口へと向かった。
そこで5万円を借りて、再びパチンコ屋へと戻り打ち始めていく。
全てパチンコ玉と交換をして、台を打っていくがチャンスがあるだけでまったく当たりが来ない。
あと少しで勝てそうなのに、どうしてうまくいかないんだ・・・!!
金が足りないから勝てないんだろうか・・・きっとそうだ!
もっと金があれば勝てるんだ、ならもっと借りればいいのか!
「簡単なことじゃないか!」
でも、今日はこのくらいにしておこう。
明日からまた勝てるようにすればいいんだから、焦る必要なんかないだろう。
それから僕は、消費者金融を頻繁に利用するようになった。
ギャンブルで負けては金を借りて、時には小さな当たりを出してだからやめられないんだ。
今日もまた10万円を借りてパチンコ屋へと向かう、これが当たり前になってきた。
だんだん金の感覚が分からなくなり、平気で借りるようになってしまっていた。
台でいくら打っても当たりなんか出やしなくて、再びパチンコ玉がなくなり始めた。
「今日もダメか・・・!」
手持ちには千円しかない。
どうせ当たりなんか出ないが、これっぽっち手元に合ったって仕方がない。
だから、僕は換金してパチンコを始めたのだが・・・これが意外な結果をもたらしたのだ。
え・・・うそだろ・・・?
パチンコ台を見れば、フィーバーを起こして強い光を放ち、玉がたくさん流れ出ていた。
もうギャンブルはやめた方がいいと思ったけど、まだ運に見放されてはいなかったのか!
思わず笑みがこぼれて、ますます自信がついた気がした。
ケースにパチンコ玉をたくさん入れて回収していき、換金してもらうと合計8万円だった。
もうだめだと思って出した千円がなんと8万円に化けたのだ。
「ははっ、やっと運が回ってきたか!」
これだからやめられないんだよな、ギャンブルはさ。
その得た8万円を早速、酒を飲むための資金にした。
普段なら絶対に入らないおしゃれなバーに入り、一人で酒を飲み続ける。
やっぱり勝った日に飲む酒はうまいな、そう思いながらグラスを口へと運んでいく。
「あれ、もしかして・・・」
すると、僕に声をかけてきた人物がいた。
振り返って確認したら、例の事務職の女性が立って僕を見ていた。
どうして彼女がこんなところに・・・でも、今は気分がいいから不快に思わない。
不思議そうに僕を見てきょとんとしている彼女。
僕はそんな彼女を見て笑った。
「君か、良かったら一緒に飲まないか?
金が手に入ったから、おごるよ」
「ご一緒してもいいなら、ぜひ」
彼女は僕の隣に座って、カクテルを注文する。
そういえば、こんな風に誰かと酒を飲むなんてしばらくぶりかもしれないな。
会社では明るく振る舞っているが、それはあくまでも表向きの顔で、内心はめんどくさいとか平気で考えたりしているんだから。
酒に酔っているからなのか、僕はパチンコにハマっていることを彼女に話した。
彼女はパチンコには興味がないみたいだが、僕の話を聞いてくれた。
8万円儲けたことも話したが、なんだか彼女は楽しそうではなかった。
「あの、余計なお世話かもしれませんがパチンコとかギャンブルはやめた方が・・・」
彼女にそういわれた瞬間、いっきに酔いがさめた。
ギャンブルはやめた方がいい?
何を言っているんだ、ギャンブルに勝ったから8万円手に入れることが出来たんだ。
やめるなんて出来るわけがないじゃないか!
彼女は何もわかっていないから、そんなことが言えるんだ。
終いには借金の話まで始めて、なんだかウザったくなってきた。
せっかく人が良い気分で酒を飲んでいたというのに、そんな気持ちがなくなってしまった。
やめたければ好きな時にやめることが出来るんだ。
いちいち他人に口出しをされたくない。
自分のことくらい自分で決められるんだ。
「ギャンブルをした事の無い君には、何も分からないさ。
それに僕はどんなに頑張っても、あいつがいる限り昇格出来ない」
「そんなこと・・・」
「気休めはよしてくれ!
実際そうじゃないか、僕は落ちこぼれであいつは出世街道まっしぐらだ!」
僕は大声で言った。
あいつは未来があるし分かっているからいいけれど、僕はそうじゃない。
どんな未来が待っているのか、どんな運命なのか知ることが出来ないから、だから不安なんだ。
僕が怒鳴ると彼女は見るからに怯えて、僕から目をそらして気まずそうに黙り込んだ。
何だかいたたまれなくなって、僕は金をテーブルに置いて彼女を一人残したままバーを後にした。
一体僕が何をしたっていうんだ!
ギャンブルをしない方がいいだなんて、そんなの僕の勝手じゃないか。
他人にとやかく言われたくない。
バーを出て一人で歩いていると、違う飲み屋に誘われてそちらへ流れ込んだ。
僕が椅子に座っていると、店の女の子たちが集まってきた。
「何になさいますか?」
「とりあえずビールで」
僕がそういうと、すぐにビールが出てきて僕は機嫌を少し良くした。
再び楽しく飲んでいると、一人の女性が競馬について話し始めて僕は聞き入った。
普通に仕事をするよりも、競馬で当たりを出した方が儲かるという事。
それだったら、こんなふうに働かなくてもいいのではないか、とまで言う女の子。
言われてみればそんなような気がしてきた。
僕は、借金をしてまでパチンコをしていると話したら、大当たりを出せばいいのだと言われた。
どうやら、その女の子もギャンブルが好きみたいで僕とは気が合いそうだった。
ギャンブルをやめた方がいいのかな、そう思って最後だと思ってやると勝つんですよね!と話す女の子。
そう、まさにその通りなんだよな・・・やめた方がいい、そう思う時に限って勝って大金を手に入れることが出来るからやめられないんだ。
結局、儲けた金は全て飲み代として使ってしまい、なくなってしまった。
でも、大丈夫だ・・・だってまた勝てばいいだけなのだから。
あの子の言う通り、まじめに仕事をして金を得るよりもギャンブルでもうけた方がいいかもしれないな。
だが、無職になってしまうと消費者金融から金が借りられない。
仕事は辞めないようにするが、基本的に残業などは断ろう。
残業なんかしたら、パチンコをする時間がなくなってしまうし、もったいないからな。
別に最低だって言われても構わない。
もう後には戻れないのだから、進むしかないんだ、僕は。