あれから僕は消費者金融から金を借りつつ、ギャンブルを続けている。
もちろん、仕事はきちんとしているが日に日にミスが増えて、やる気力も少しずつなくなり周囲の目も気にしなくなった。
周りからは、なんだか人が変わったみたいなんて言われたりしているらしい。
千円が8万円に化ける、そんな世界があると知ってしまえば、まじめに働いて稼ぐことがバカバカしく感じてくる。
まともに働かなくても大金を得ることが出来るなんて知れば、きっと僕だけではなくて多くの人間たちが魅力を感じるに違いない。
「最近、たるんでいるんじゃないのか?!」
「申し訳ございません」
こんなふうに上司から注意されることも多くなった。
ちょっとしたミスばかりするようになって、とうとう上司も見過ごせなくなったか。
ただ謝っておけばいい、どうせ僕は出世なんかできないのだから。
自分の席へ戻り、再び仕事を始めるが集中力が散漫になっていてやる気が続かない。
それよりも早くパチンコがしたくてたまらないし、早く仕事から解放されたいとさえ思う。
今日は勝っていくら儲けてやろうか、そんな事ばかり考えている。
少し休憩するために、僕は喫煙室へと向かって煙草をふかしたがそれでも疲れが取れなかった。
何本吸っても気分が冴える事は無く、ますますイライラしてきている。
すると、再び事務職の彼女がやってきて僕に声をかけた。
「顔色が悪いみたいですが、大丈夫ですか?
ギャンブルなんて身体を壊しますし、金銭的にも負担になってしまいますよ」
「うるさいな、ほっといてくれないか!!」
「私はあなたの身体が心配なんです、顔色も悪いですし。
仕事だって最近は・・・」
僕がにらみつけると、彼女は口ごもる。
身体が壊れる?そんなわけないじゃないか、あるわけがない。
僕はこの通り顔色が優れないだけで、何も大したことは起きていないから大丈夫だ。
何も僕の事を知らないくせに、悲しそうなふりをしないでくれ。
そうやって心配して近づくのだって、僕としては迷惑なんだ。
言いたいことを言って、僕はオフィスへと戻り嫌々仕事をこなしていくが、進み具合が悪い。
全く・・・本当に面倒くさくて嫌な仕事だな・・・。
そんなことを考えながら仕事をしていると、あっという間に就業時間になった。
やっと仕事から解放されて、僕は帰り支度を始めた。
そんな時、上司から声をかけられて僕は嫌な予感がしたんだ。
「悪いが今日は残業をしてくれないか?
皆に断られてしまって」
上司がそういうが、全く申し訳なさそうに見えなかった。
大体みんなが断ったものを僕に押し付けるのは何か違うんじゃないのか?
僕だって自分の時間が欲しいし、他にも残業してくれそうな奴ならいるじゃないか。
そうだ、ぼくと同期の彼に頼めばいいじゃないか、そう思ったがすでに帰った後だった。
「申し訳ありませんが、用事がありますので」
そう言って残業を断り、僕は足早に会社を後にした。
僕が向かった先は言うまでもない、パチンコ屋だ。
パチンコ屋へ行く前に、消費者金融へ行き今日の分の金を借りて行く。
金は借りればいくらでもあるんだ、だから何も怖いことなんかないんだ。
パチンコ屋へ行き、当たりが出そうな台を探してその台で打ち始める。
今日はなんだか調子がいいぞ!
そのまま流れに乗って進めていき、何度かのチャンスが訪れる。
「今日こそは勝たせてもらうぞ!」
そう意気込んでパチンコ台を眺めているが、なかなかフィーバーしない。
どうしてこんなについてないんだろうな・・・。
いつも運に見放されていれば、僕だってギャンブルをやめられるっていうのに。
まるで、神が仕組んでいるんじゃないかと思うくらいだ。
結局、勝つことが出来なくてまた大損をしてしまった。
仕方ない、また金を借りにでも行くか・・・そう思いながらパチンコ屋を後にした時。
ふと、自分が今まで借りてきた金額が気になって、借入金額を調べた。
一か所から借りているが、すでに20万円を超えている状態で、利用限度額も超えそうになっていた。
つまり、この消費者金融から金を借りる事は出来ないという事だ。
給料をもらっても生活費も確保しなきゃいけないから、返済もギリギリの状態になってしまっている。
少しずつだが返済をしているにもかかわらず、返済額が膨れていくのは僕が毎日のように借入をしているからだ。
「仕方ないよな?」
僕は自分に言い聞かせるように、独り言を呟いた。
だってやめようと思った時に勝つんだから、やめるなんて出来るわけない。
当たれば大金を手に入れることが出来るし、その時には返済だって一気に出来る。
こんな良い事ってないだろう?
そう考えて、僕は新しい消費者金融の申し込みをして新たに借入することにした。
今回も5万円を借りて、再びパチンコへと向かっていく。
その足取りは軽く、今後重大なことが起きるという事も知らずに僕は歩いていた。
何日か経って、僕はすっかり消費者金融を普通に利用するようになった。
すぐに金を渡してもらえるから本当に助かるし、すぐに使えるから嬉しい限りだ。
気がつけば、借金の金額もすごい額まで膨れ上がっていて、正直驚いた。
最初は30万円ぐらいだったのが、現在では50万円を超えてしまっている。
だけど、大当たりを出せば50万円の返済なんか簡単にできてしまうから大丈夫だ。
やっとまた休日が来て、僕はパチンコ屋ではなく競馬へと向かう事にした。
たまには競馬でひと儲けするのもいいだろうと思い、まっすぐ行った。
馬券を購入して、自分が選んだ馬を確認しにレースが見える場所へと向かう。
「今日はいつもの倍賭けてるからな!
僕の期待に応えてくれよ!」
そう口に出して言う事で、自分自身を奮い立たせる。
今日はいつもの倍賭けたから、絶対に勝ってほしいというか勝つんだ!
今回、僕がかけた金額は10万円だから倍になればいい値段になるに違いない。
だからこそ、この勝負は負けられないんだ!
レースが始まって、走っている馬たちをじっと見つめる。
僕が狙っていた馬は皆まだ上位に上がってこない・・・大丈夫か?
ヤキモキしながらレースを見ていると、一頭の馬が上位に出てきたのが確認できた。
その馬は僕が狙いを定めていた馬で、思わずその場で大声を出して応援を送る。
「頑張れ!頑張ってくれッ!!」
必死に声援を送り、その馬が優勝するように強く、強く願った。
そして次の瞬間、レースも終わり僕が目を付けていた馬が3位に入ったのが分かった。
・・・・やった、3位だけど入ったぞ!!
これで少しだけど、また儲かったから嬉しい。
こういうことがあるから、ギャンブルは続けたいんだよな!
早速、換金しに向かい僕はまた上機嫌になり鼻歌を歌った。
さて、この儲けた金で今度は何をしようか?
いざとなると、返済にすべて充てるのはもったいなく感じてしまう。
やっぱり、景気よくぱーっと使ってしまった方がいいだろうか?
そのほうがいいよな!
そう思って僕は、再びあの意気投合した女の子のいる店へと向かう。
この時間なら空いているだろうし、ここから近いから行こう。
「あら、また来て下さったんですか?」
この間の女の子が僕の隣に座って、にっこり笑った。
もしかしたら、この子が僕の唯一の理解者なのかもしれない、なんて思うようになった。
僕たちは再びギャンブルの話で盛り上がり、お互いの経験談を話すようにもなったんだ。
どうやら、彼女も借金があるみたいでそれでもギャンブルが楽しくてやめられないと。
それは僕も全く同じで、仲間がいることが何よりも嬉しかった。
借金なんて後でいくらでもなるんだから、気にするだけ無駄とまで彼女が言う。
確かに気にしたって仕方がないかもしれないな。
「今度は地下カジノに手を出してみたらいかがです?
当たれば大金が手に入りますよ?」
「地下カジノか・・・いいかもしれないな」
彼女は笑いながら言っているが、どうやら以前手を出したことがあるらしい。
その時は金に余裕が無くて、あまり賭けることが出来なかったようだ。
公営ギャンブルだけじゃそろそろ飽きてきたから、そっちにも手を出してみるか。
そっちの方がなんだか大金が手に入りそうだ。
どこでやっているのか分からないから、彼女からいくつか場所を教えてもらった。
カジノか・・・まるで気分はラスベガスのようだな!
一発当てて、僕も金持ちの仲間入りになったりしてな・・・楽しみだ!