あれからあっという間に一週間が経った。
俺はまともに転職もせず、何かにとり憑かれたかのようにギャンブルをやり続けている。
パチンコだけだったのだが、最近では競馬も少しかじり始めた。
競馬もよくルールを知らなくて、雑誌を購入したりネットで検索したりして調べて覚えているところだ。
3連単とか他にも馬券のルールがあるから、それを順番に覚えているところだ。
覚えるまでは大変だが、覚えてしまえば今後楽になるから土台を固めなければ。
競馬新聞は必ず購入した方が良いと神沼に言われて、購入するようになった。
また、予想している人の意見も取り入れるようにしている。
さて、今日も早速競馬でもしに行くか。
競馬新聞もおさらいしたことだし、今日は勝てる気がする!
俺は神沼と約束をして、競馬場で待ち合わせることにした。
「よっ、待ったか?」
「いや、俺も今来たところだからさ」
「んじゃ、行くか!」
そう言って、俺たちは機械で馬券を購入することに。
どうしようか悩んだ挙句、俺は3連単にしてしまった。
3連単とは、1着、2着、3着となる馬番号を着順通りに的中させる投票法なのだ。
新聞も予想者の意見も参考にして、今回は11番、6番、8番を選んだ。
神沼も俺と全く一緒で3連単にして、馬番号は全く異なった。
本当は三連複にしようか悩んでしまった。
三連複とは、1着、2着、3着となる馬の馬番号の組み合わせを的中させる投票法の事。
組み合わせとしてあたっていれば良く、1着、2着、3着の着順は問わないのだ。
だけど、それではまるで逃げるみたいで嫌だったんだ。
会社から逃げ出したような自分と重なってしまうから。
俺たちは馬券を持って、レースが良く見える位置まで移動した。
いよいよ始まることもあって、周囲もうるさいくらいに騒ぎ立てている。
皆自分の勘を信じてレースを待っているんだ。
そして、その数十分後。
待ちに待ったレースが始まり、会場が一気に大声に包まれてうるさくなった。
それはパチンコ屋の騒音とあまり変わらないレベル。
「今度こそ当たれーッ!!」
「11番来てくれ!!」
俺も神沼も必死に自分が一等に選んだ馬を応援する。
スタートダッシュが優位だったのは3番の馬で、その馬は神沼が一等に選んでいる馬だった。
もしかしたら、今回の予想は神沼の方が合っているかもしれない。
いや、弱気になるのはまだ早い。
俺が選んだ11番の馬だって何頭か追い抜き始めて、追い返しを始めている。
馬って本当に走るのが早いんだな・・・!
見ていると息をするのも忘れてしまいそうなほど。
レースは続けられ、そろそろゴールが近づいてきた。
ゴールまであと数メートルの所で、3番の馬が急に失速し始めて後ろから11番の馬が追い上げてくる。
「ふざけんなよッ、何で失速すんだよ!!」
「なんだよ、あの馬!
っていうかジョッキーもしっかりしろよ!!」
3番の馬は大穴の馬だったのか、神沼以外にも一等に選んでいる人達がいたようだ。
ゴール直前で失速してしまい、途中で馬券を地面へ捨てて帰るものまで。
彼らは相当イライラしているようで、少し他人とぶつかっただけでもケンカ腰。
いくら外れたからって、そんな当り散らすことないじゃないか。
ギャンブルでイラついていては、余計ストレスが溜まってしまう。
すると、その時11番の馬が3番の馬を追い抜き、一位になり二位に3番の馬が入ってきた。
そして、三位は7番の馬だった。
結局、俺も神沼も予想を外してしまった。
隣で神沼が怒りを露わにしていて、止められない状態だった。
外れた割に俺は意外と落ち着き払っていた。
外れて悔しいと思っていても、そこまでではなくて何とも思わなかったが、また次もあればやりたいと言う意欲だけはあった。
何だろうな、この感覚は・・・不思議な感覚だ。
ギャンブル依存症ではないと思うけれど、ギャンブルするのは楽しい。
「なぁ、神沼、カジノ連れて行っていくれないか?
この間話してくれただろう?」
「そうだった、そうだった!
切り替えてカジノでも行こうぜ!」
俺がカジノの話をすると、神沼の機嫌が良くなった。
カジノが余程好きなんだろうか?
俺はまだ経験したことが無いから分からないが、神沼がこんなに明るくなって上機嫌になるくらいだから楽しめる場所なんだと思う。
どんな雰囲気なのか、どんな場所にあるのか楽しみだ。
電車で移動すること約30分。
降りた場所は思ったよりも賑やかな場所で、とてもカジノがあるようには見えなかった。
神沼の後についていくと、少しずつ人気がなくなっていき少しだけ不安になった。
いくら人目につかない場所といっても、こんな厳重になっているのか・・・。
俺が思っているよりも、関係者たちは余程警戒している様子。
まぁ、よく考えれば当然のことかもしれない。
「お待ちしておりました、神沼様。
そちらのお方は?」
「俺の親しい友人なんだよ。
会員にしてやってくれないか」
「かしこまりました」
そう入口に立つ男性陣に神沼が堂々と伝えると、会員証を発行してもらう事が出来た。
手続きといっても本当にあっという間で、時間がかからずそのまま会場へ入ることが出来た。
中は雰囲気のある感じで、華やかな感じだった。
予想とは少し違ったけれど、華やかなことには変わりないし楽しめそうだ。
俺と神沼はそれぞれやりたいギャンブルへと別れた。
神沼は大きなパチンコ台へと向かっていくが、俺はルーレットの方へと移動した。
カジノといえば、やっぱりルーレットだと思うから。
一回目はすでに始まってしまっていて、ただ見ているしか出来なかった。
様子見という意味では良かったんじゃないかと思う。
驚いたのは、皆の賭け金だ。
ありえないほどの金額を賭けて楽しんでいるのを見て、やはり普通のギャンブルとは違う事が分かる。
どうみても違法的な賭け金だって、俺にもわかる。
だけど、これはこれでまた面白味があっていいと思う。
玉が止まったのは黒の35番だった。
赤に賭けている人が多く、皆悔しがり文句を言っている。
そして再びルーレットが始まろうとしているのを見て、俺も新規で加わった。
今までの当たりを確認してみると、赤の方が多く出ているようだ。
しかし今出たのは黒だったから、正直あてにならない。
「よし、赤の16だ!」
色々選ぶことも出来るが、一つだけ決めて当たれば配当が36倍だから。
36倍となれば賭け金が少なくたってそれなりに稼ぐことが出来る。
他にいる者達もみんな36倍を狙っている。
ディーラーが玉を投げ入れ、ホイールがぐるぐると回り始めた。
皆でホイールを見つめ、自分が選んだ番号に玉が止まるよう念を送っている。
それは、もちろん俺も全く一緒だ。
初めてのルーレットだから、まだよく勝手がわかっていないけれど、何だかうまくいきそうな気がする。
少しずつホイールの回転が弱まり、もうすぐ玉がどこに止まるのか決まりそうだった。
失速すると共に、周囲も一気に盛り上がりを見せた。
「来い、16番・・・!!」
俺が賭け金として出した金額は、10万だった。
いきなり20万とはちょっと危ないかなと思い、その半分にしてみたんだ。
これで当たれば、軽く100万円を超える。
淡い期待を抱きながら、ホイールの上を転がる玉を見つめる。
これで当たれば・・・・!!
そして、転がっていた玉がとうとうある番号の上で止まった。
その瞬間、あんなに騒がしかった周囲が一気に静まり返った。
「・・・黒の24!!」
「っざけんなよッ!!」
「なんで24なんだよ!!」
外れて皆が再び文句を言っている。
ルーレットは本当に運次第なんだと思う。
皆は大きく外れているからいいかもしれないが、俺はすぐ隣だから何とも言えない。
赤の16の隣は黒の24なのだ。
こんなかすりかた、一番嫌じゃないか・・・。
だったらそのまま16番に入ってくれても良かったんじゃないのか?
そう考えると、何だか俺までイラついて来てしまった。
このままじゃ情けなくて、神沼に顔向けが出来ない。
何か当たりを出して報告できるようにしなきゃな!
そう思い、俺はさらに10万円を賭けた。
もちろん、狙うは一つの番号!
何が何でも36倍の賞金を手にしたい。
小さい当たりを得たって意味がない。
狙うならやはり、大きなものの方がいいに決まっている。
「今度こそ当たれ!!」
俺が賭けたのは、黒の22番。
さっきからずっと黒が出続けているから、ちょっと賭けてみたくなった。
俺だけではなくて、周囲の連中も負けたのが悔しかったのか、さらに掛け金を倍にして挑んでいる。
俺ももう少し賭けようか迷ったが、結局10万円にしてしまった。
だが、さっき負けてこれで合わせて20万だからな・・・。
だが、周囲は50万円とか100万円も賭け金で置いている。
それは俺からすれば、とんでもないことだ。
全財産を失ってしまう事になるからな・・・貯金も少ない方だし。
だけど、もし勝つことが出来ればその倍の金が手に入る。
そう考えると、掛け金をもう少し増やしてもいいかもしれないな。
「・・・黒の13!!」
「・・・っ!」
また外れてしまい、周囲もなかなか当たっていない。
ルーレットって本当にあたるモノなんだろうか・・・不安になってきた。
不安だと思いつつ、俺はさらに金を賭けていく。
時間が許す限りまで、ただひたすらにルーレットに惚けていく。
夢中になっていたら、あっという間に閉店時間を迎え、俺は神沼と一緒に店の外へ出た。
あれから神沼は小さな当たりを得ることが出来たようだが、さらにつぎ込んで結局失ってしまったらしい。
俺もなんだかんだ言って、一晩短時間で50万以上使ってしまった。
そのことを話すと、神沼は“なかなか様になってきた”と笑いながら言った。
ギャンブラーとして様になってきた、という事だろうか。
自分はギャンブルとは関係ないとばかり思っていたはずなのに、いつの間にかこんなにもどっぷりハマっている自分がいる。
自分の親父と同じ道をたどっていると思うと、本当に親子なんだなと思う。
神沼と別れた後、俺は自宅へ帰り泥のように眠った。