ショウと別れてから、何度かショウに連絡をしたが全く出てくれないし返事もない。
今回の事はすごく怒らせてしまったみたいだ。
あれから決めたんだ、少しずつギャンブルをしないようにするって。
しないようにして、少しずつ作ってしまった借金を返済していくんだって。
それからちゃんとショウに謝って、もう一度やり直してもらおうと考えている。
いきなりギャンブルをやめるのは出来ないから、パチンコに通う回数を毎日から週4日に減らしていこうかと、今現在頑張っている。
他の人からすれば週4日は多いかもしれないけど、私からすれば少ないこと。
「・・・頑張らなくちゃ」
私は自分へ言い聞かせるように言った。
ここで頑張ることが出来れば、きっとショウが戻ってきてくれるはずだから。
ギャンブルをやめれば、あの幸せな日々が戻ってくるから。
そう信じて、私はこれから頑張っていかなきゃいけない。
今がきっと頑張り時だから気を抜かないようにしないと。
今残っている60万円の借金を、少しずつ減らしていくためにはやはり仕事をしっかりしなきゃいけないよね。
残業があるなら、残業も引き受けて稼いで返済に回さないと。
それから、ギャンブルはキャッシングしたお金でするんじゃなくて、自分の給料から余裕を持って出すようにする。
そう思っていても、行動に移すのは難しかった。
「やったーーっ!」
結局パチンコ屋へ来て、今勝ったところ。
パチンコ玉が溢れて、それをケースに受け取っていき気分がいい。
ギャンブルをしている人なら分かると思うけど、もうだめだって諦めた時に限って当たりが出たり勝つことが出来るんだよね。
いつもは負けてばかりいるのに、やめようとしたり諦めようとした時に出る。
これって嫌がらせ?
でも、勝てることが嬉しくて結局またやっちゃうんだよね。
「あれ、君最近姿あまり見せなくなったよね?」
いきなり声をかけられて、私はキョトンとした。
そこには、好青年が立って私を見ていた。
今、最近姿見せないよねって言った?
それって、いつも私が来ているのを知っているってコト?
年齢は私より少しだけ上のように見える。
スーツではなくて私服を着ているが、着こなしがしっかりしていてモデルのようだった。
私が黙っていると、彼が笑いながら口を開いた。
「ああ、ごめん。
俺はナギト、君は?」
「私は雪城このみです・・・」
「このみさ、最近此処に来てないけど何かあった?」
いきなり呼び捨て?!
初対面の相手にいきなり呼び捨てされるなんて。
ちょっと馴れ馴れしすぎるような気がするけど、嫌な気はしなかった。
何て言うか、この人についてもっと知りたいと思っている自分がいる。
恋愛感情とかじゃなくて、純粋に知りたい。
だって私の事を知っているみたいだから。
「実はね・・・」
私はなぜか今まであったことを全て話した。
初対面の相手にいきなりこんなことを話すなんて、我ながらどうかしている。
だけど、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
サツキは仲の良い友人だけど、何だか相談しづらいし・・・。
でも、自分の中で押し込めておくには辛すぎる事。
だから自然と彼に話してしまったのかもしれない。
それにナギトって名前、結構珍しい気がする。
「なるほど・・・だけど、君は絶対あきらめることになると思うよ。
またギャンブルに手を染めて、借金だって今よりも膨らんでさ」
「どうして、そんなことを言うの?」
「どうしてって、そんな気がするからさ。
それに、その彼はやめた方がいいと思うよ」
私がギャンブルをやめられないとか、ショウはやめた方がいいとか。
言いたい放題言われて、私は内心腹が立っていた。
今日初めて会った彼に、一体何がわかるっていうの?
そりゃあ、何もかもよく知っている人物に言われるならわかる。
でも、この人にそんなこと言われたくない。
私は気分が悪いから、家に帰ることにした。
怒っている私を見て、ナギトさんが笑っているのがちらりと見えた。
一体何なの・・・。
家に帰ったらまた独りぼっち。
一人暮らしをしている人であれば、こんなのどうってことないんだろうけど、私は今までショウと一緒に過ごしていたから、すごく寂しく感じる。
一人で過ごすのって、こんなにも寂しかったんだ。
私はさっさとお風呂を済ませて、そのままベッドへ飛び込んだ。
背中から倒れるようにしてベッドへ。
真っ暗になった天井を見つめながら、今までのことが鮮明によみがえってくる。
楽しかった光景とか記憶が蘇り、私は自然と涙を流した。
楽しかった思い出が多すぎて、乗り越えるまでにはかなりの時間がかかってしまう。
「どうして、こうなっちゃったんだろ・・・っ」
私が悪いのはわかっているのに、同時にショウの態度に腹を立てている。
ショウは私がギャンブルをしている事知らないのに、借金をしているだけで別れを切り出した。
それって、借金をしている人間は最低ってコト?
私だって好きで借金しているわけじゃないのに・・・。
でも、何を言われても私は私の道を進むしかない。
これは、ギャンブルをやめられるいいきっかけなんだ。
このチャンスを逃がしてしまったら、次はいつになるのかわからないからね。
今できることを、精一杯していきたいと思っている。
「絶対に、負けない」
諦めてしまうに決まっている、とかって言われるとそうならないよう何が何でも頑張りたくなる。
だって私は負けず嫌いだから。
どんなことがあっても、決して諦めたりはしないんだ。
そう思いながら目を閉じていると、眠たくなりそのまま眠りへ堕ちた。
翌日、会社に出社するとサツキの機嫌が良かった。
先日からずっと機嫌が良くて、私におごってくれることも多くなってきた。
私は断っているんだけど、いいからいいからと言われてしまって。
どうやら、最近彼氏との関係が順調になってきているらしく、それで機嫌がいいみたい。
今まで、彼氏とは複雑な関係だったみたいだから、嬉しいんだろうな。
私はと言えば、ショウとまったく連絡が取れていない。
拒否はされていないけど、電話に出てくれないしメールの返信もくれない。
離れてみて初めて分かった。
ショウと一緒に居られるのは、当たり前の事なんかじゃないんだって。
特別なことだからこそ、もっと大切にしなきゃいけなかったんだ。
「サツキ、今夜飲みに行かない?」
「ごめん、今日は彼氏とデートなの」
「・・・そっかぁ、ごめんね」
サツキにフラれて、何だかしょんぼりしてしまった。
そうだよね、やっと彼氏とうまくいきはじめているのに、邪魔したらよくないよね。
もう少し空気を読んだ方が良かったかな・・・。
本当に独りぼっちのような感じがして、心にまた穴が増えていく。
私と一緒に居てほしいわけではないのに、寂しさが付きまとう。
いつからこんな寂しがりになってしまったんだろう・・・。
独りなんて平気だとばかり思っていたのに。
実際は全く違うものなんだな・・・。
そんなことを思いながら、私は仕事を進めていく。
こういう時ほど、パチンコがやりたくなってしまうのはなぜだろうか。
就業時間まで待ち遠しい。
就業時間まであともう少しだけど、その短時間ですら長く感じてしまう。
ギャンブルをやめるはずなのに、待ち遠しく感じているなんて。
・・・何を考えているんだろう、私は。
これがきっかけだと自分で言っていたのに・・・だからナギトさんにあんなふうに言われてしまったのかもしれない。
あのパチンコ屋へ行けば、また会えるだろうか?
いつから私の事を知っているのか、すっかり聞くのを忘れてしまっていた。
そんなことを考えながら仕事を続けていると、いつの間にか就業時間を迎えていた。
「お先に失礼します、お疲れ様でした」
急いで退社して、あのパチンコ屋へと向かっていく。
ガヤガヤしている雰囲気が身体に染み渡るような感じがする・・・っておっさんみたい。
私は店内をぐるぐるまわり、ナギトさんの姿を探してみた。
それでも、それらしい人は全く見当たらない。
今日は来ていないのかな・・・せっかく聞きたいことがあったっていうのに。
あの時、連絡先だけでも聞いておくんだった・・・。
自分の知らないところで、自分の事を知っている人物がいると言うのは、何だか怖いし気味が悪いから。
本当、あの人って何者なんだろう。
一列ずつ見渡しても見つかりそうにない。
いっそのこと館内放送みたいなものを流してもらおうかと思ったけど、名前知らない・・・。
終わった・・・もう何も聞けないんだな・・。
「誰の事、探してるの?」
急に声が聞こえてきて、私は後ろを振り向くとそこには・・・ナギトさんが立っていた。
・・・・見つけた、やっと見つけた!
というか、運よく出てきてくれたっていう方が正しいかもしれない。
私は彼の腕をつかみ取った。
「聞きたいことがあって、探していたの!」
私がそう言って腕をつかみ見ると、彼は驚いた表情を見せたがすぐに笑った。
その笑みはあたたかいものではなくて、どこか挑発的な笑みで思わず私はその威圧感に口ごもってしまった。