本当にムカついた。
保泉に言われて、俺は絶対に同じようにならないようにしようと強く思った。
絶対ギャンブルなんかするもんか、返済だって今後はしっかりしてやる。
あんな奴みたいになってたまるか!
少しずつギャンブルする回数を減らしていくんだ、もうしない。
俺はそう強く思いながら仕事を進めていく。
すると、尚原の声が聞こえてきた。
「保泉、この資料間違いだらけ。
最初から作り直して提出してくれ」
また資料作りでミスをしたのか?
本当に懲りないと言うか、学習能力がないな・・・。
よくそんなことで俺のことを言えたもんだ。
俺はああならないよう気を付けるつもりだ。
同じだなんて思われたくないし、違うところを見せてやる。
俺は作成した報告書を、尚原に提出しに行った。
「海老原、なんか腕あげたな。
分かりやすくて読みやすいよ、お疲れ様」
今までの仕事の仕方じゃいけないんだってわかったから、やり方を変えてみた。
正直、マンネリし始めていたし、いいきっかけだったのかもしれない。
より良い仕事をしようと考えて、今回普段しないことを取り入れてみた。
そのおかげで少し腕が上がったと言われて、純粋に嬉しかった。
仕事って言われたことだけをするんじゃなくて、何かプラスアルファ加えることが大切なのかもしれないな。
相手が望んでいること以上のものを提供しなければいけないのだと、改めて思った。
遠くで保泉が俺を睨み付けている事に気が付いて、俺はしれっと自席に戻った。
相手にするだけ時間が無駄になってしまうからな。
就業時間を迎えて、保泉が帰り支度をしている。
「海老原、ちょっと残業に付き合ってくれないか?」
「尚原、仕事片付かなかったのか?
別に俺は付き合っても構わないけど」
「サンキュー、恩に着るよ」
俺は尚原の残業を手伝う事にした。
残業代が入れば、その分返済に回すことが出来るからな。
一緒に片付けた方が早いから、効率もいい。
そんな俺たちのことを嘲笑いながら保泉が遠くから見ていた。
あいつは馬鹿だな。
まともに働いているだけじゃ、返済なんか出来ないんだよ。
そもそも、あいつはまともに働いているとは言えない。
降格したことで給料だって減らされてしまっているだろうから。
あのままでいいのかね、あいつは。
そんなことを考えながら仕事を片付けていくと、あっという間に片付き始めた。
残るは、尚原が作成している資料だけになった。
残業と言う割には結構早く終わったような気がするな。
「海老原、なんか変わったな」
「そうか?
保泉と言い争ってから、あいつみたいになりたくないって思ったんだ。
ギャンブルの回数を減らして、返済もちゃんとする」
「さすが海老原、やっと本気になったんだな!
それなら俺も出来る限り協力しよう」
「ああ、何かあった時は宜しく頼むよ」
俺がそう言うと、尚原が嬉しそうに笑った。
そう、あいつと同じギャンブル依存症なんて嫌だ。
だったらこっちが早く克服してやるまでだ。
借金だって俺の方が早く返済して、すっきりしてやる。
尚原が協力してくれるなら、俺も頑張れるような気がする。
俺が過ちを犯しそうになった時でも、導いてくれそうな気がする。
残業を終えて、俺たちは駅で別れた。
お互い逆方向だから、改札を抜けて別れたのだ。
ホームで電車を待っていると、ネオンに輝く街並みが見えた。
そこには、消費者金融の看板やパチンコ屋の看板が見える。
・・・・いいな。
ああやって光輝いて見えると、行きたくなる。
ちょっとくらいならいいかなと思う自分がいるのも確か。
ただ、俺は回数を減らすことから始めるつもりだから、少しはいいのかもしれない。
だが、この気のゆるみから振り返すことも考えられる。
電車が来て俺は乗り込んだが、満員電車で本当にイライラする。
最近の連中はマナーが無いし気が使えないから、ウザったくて仕方がない。
それから最寄り駅に着いて、俺はパチンコ屋の前を通った。
「パチンコか・・・」
俺は財布の中身を確認しようとしたが、すぐに思いとどまった。
いや、俺はもうギャンブルはしないって決めたじゃないか!
だめだ、パチンコはもうしないんだ・・・!
俺は財布をカバンの中にしまって、その場から逃げるかのように立ち去る。
今はあちこちにパチンコ屋があるから、本当に目の毒だし誘惑されてしまう。
大体駅前にあるから、いつも帰りがけに寄っていたが今日は寄らない。
パチンコ屋を通り過ぎて、自宅へついて俺は倒れるかのようにベッドへ飛び込んだ。
なんだ・・・今日はそんなに疲れていないような気がするぞ・・・。
「パチンコしなかったからか・・・?」
いつもはパチンコを帰りがけにして、負けてイライラしながら帰宅していた。
冷蔵庫からビールを取り出し、冷たくなったビールを口へと運び喉を潤す。
あれ・・・いつもとビールの味が違うような気もする・・・。
普段はイライラしているから味覚とかもおかしかったのかもしれない。
イライラは無駄に体力を消耗してしまう行為なんだ、きっと。
それから夕食を食べて風呂に入ってから、テレビを見てのんびり過ごす。
テレビでは脳出血の特集が流れていて、貧血と勘違いする人が急増しているみたいだ。
貧血もいきなり倒れてしまい意識を失ってしまうことがある。
その倒れて意識がなくなってしまうと言う部分が似通っているため、間違いやすいのだとか。
俺は好き嫌いが無いから貧血は心配ないが、女性に多いようだ。
「お袋たちちゃんと食ってるのかな・・・」
急に不安感を抱き心配になってきた。
そんなことを考えているうちに、俺はそのまま眠ってしまった。
俺がギャンブルを全くしなくなってからはや2週間が経とうとしていた。
今のところ順調で、看板を見ても思いとどまれるようになってきた。
これは俺にとって大きな成長だと思う。
この調子なら、ギャンブル克服も夢じゃないかもな!
仕事も以前より出来るようになってきたし、少しずつ充実しているような気がする。
俺はもう大丈夫なのかもしれないな!
今日は休みで、俺は家でテレビを見ていた。
給料が入ったから、たまには買い出しにでも行くか。
俺はそのまま買い出しへと向かうために、街へ繰り出した。
相変わらずの人混みに苦戦しながらも、必要なものを買いそろえていく。
「今ならキャンペーン中ですよ~!!
本日は当たりが出やすい台が揃っております~!」
女性の声が聞こえてきてその方向を見ると、そこにははっぴを着た女の子が。
それも立っているのは、パチンコ屋の目の前。
今日は当たりやすい台が揃っているって言ったよな・・・?
あたりやすいってことは、その分勝って儲けることが出来るってことだ。
だけど、俺はもうギャンブルをしないって決めたんだ!
ギャンブルをしたら、保泉みたいになってしまう。
・・・でもちょっとだけなら。
いや、ダメだ!
それじゃあ、意味がないじゃないか!
俺はパチンコ屋の前を通り過ぎようとしたが、やっぱり無理だった。
パチンコ屋へ入り、俺は勝てそうな台を探して見つけた。
給料が入ったから1万円分だけやろうかな!
「いいよな、少しくらい」
自分に言い聞かせるように言ってから、パチンコを打ち始める。
やっぱり、この感じが懐かしい・・・!
パチンコって久々にすると更に面白味があるな。
そして次の瞬間。
当たりが出て、銀色のパチンコ玉が溢れんばかり出てくる。
マジか・・・このタイミングで出るのか?!
俺はケースを受け取り、玉を回収していく。
いつも諦めかけた時に、こうなるんだよな・・・!
結果、俺は20万儲けることに成功した。
その瞬間、俺はふと我に返った。
「この金は返済に充てるか」
いつもの俺ならこのままさらにつぎ込んでしまっているが、そうはしない。
またつぎ込めば勝てる可能性があるかもしれない。
だけど、今までそうやってつぎ込んでは負け続けてきた。
だから、もう馬鹿な真似はしない。
俺は儲けた金を大切にカバンへしまい込み、パチンコ屋を後にした。
そして消費者金融へ行き、早速その20万円全てを返済に充てることにした。
本当に少しずつだが、返済しているから大丈夫だ。
ギャンブルで稼いだ金を返済に充てるやり方の方が早いかもしれないな・・・。
「海老原、まさかまた金を借りたのか?」
いきなり声が聞こえて、振り向くと尚原が立っていた。
ヤバいな・・・見られていたのか。
俺は首を横に強く降った。
消費者金融に寄ったのは、借入するためではなく返済の為だと話した。
そして、パチンコ屋へ寄ってしまったことも正直に話した。
尚原は少々呆れ気味だったが、俺が儲けた金を全て返済に充てたから、そんなに怒らなかった。
“もうこれきりだぞ”
尚原にそう釘を打たれてしまった。
俺だってそうしたいけど、禁断症状みたいなものが出てくるんだよな・・・。
何とかいい方法を見つけてギャンブル依存症を克服しないと。
俺だってやるときはやるんだという事を、ちゃんと証明したい!