今日はカジノへ行こうか迷っている。
実は、今日は少し特別で最大10倍の当たり金が出る日になっているから、是非とも行きたいものだが、残念ながら手元に金がない。
しかし、大丈夫・・・俺には消費者金融がついているからな。
また金を借りればいいだけだから、何も心配なんかいらない。
借金が膨らむが、このカジノであてれば返済なんか簡単にできるからいい。
細かいことなんて、考えるだけ無駄だ。
「保泉、今日例のカジノへ行かないか?」
「いいな、行こうぜ!」
意気投合して、仕事終わりに行くことに決めた。
カジノで当たり金10倍っていうのはかなりでかいから、さぞかし人も多いだろう。
混んでいても絶対に帰るものか、当たりを出すまでは帰らない。
帰りに消費者金融へ寄って、まとまった金額を借入してからカジノへ行こう!
保泉も消費者金融から金を借りると言っていた。
二人して何をやっているんだと思うかもしれないが、俺たちにとってはこれが当たり前。
しかし、最近保泉が仕事で小さなミスをするようになってきた。
俺は今のところ問題ないけど、保泉が上司から注意されている姿を見かけた。
どうしたんだろう、保泉らしくないじゃないか。
「よう、海老原」
「お、尚原じゃないか。
保泉、最近小さなミスするようになったって・・・」
「ああ、そうみたいだな・・・」
尚原が心配そうな表情をしながら言う。
保泉は今までミスなんてしたことが無かったから、みんな驚いている。
上司も驚いているくらいだから、本当に珍しい事なんだ。
少し顔色が悪いような気もするが、大丈夫だろうか・・・心配だな。
って他人を心配している余裕なんか本当は無いんだけどな。
自分の事を考えないといけないのに、考えたくなくて目をそらすことしか出来ない。
借金が増えていくばかりで、俺の金銭感覚はすでに麻痺してしまっている。
すると、俺の携帯に電話がかかってきた。
それは妹の菜月からの着信で、俺はそのまま放置した。
何て言うか関わるのが面倒なんだよな、いつもギャンブルをやめろと口うるさいから。
だからもう何年も実家には帰っていない。
俺が帰ったところで何かが変わるわけでもないし、互いに嫌な思いをするから。
だったら帰らない方が互いの為だ。
仕事をこなしていくと、就業時間まであと10分になった。
やっと仕事が終わりそうで、余裕が出てきた俺はスピードをあげていく。
すると、同僚がやってきた。
「あのさ、残業手伝ってくれないか?」
「悪い、この後用事があるんだ。
本当にすまない」
「そうか・・・保泉も用事があるらしいんだ。
仕方ない、僕一人で残業するよ」
そう言って、同僚が自席へと戻っていく。
悪いが残業なんてしている暇なんかないんだ、カジノへ行かなければいけないから。
それに、もっと言えば業務時間内で片付けられない自分がいけないんだと思う。
一体何をしていたんだろうか?
就業時間になり、俺は保泉と時間をずらしてカジノで待ち合わせをした。
一緒に歩いているところを見られたらうるさいだろうから。
別々に退社をして、カジノへと向かっていく。
その前に、俺は消費者金融へ向かい40万円を借入した。
さすがにもうすぐ利用が制限されてしまうだろう。
「海老原、また借入してきたのか?」
「ああ、保泉だって借入してきたんだろ?」
「ああ、当然だ!
今日は特別な日だからな!」
俺たちははしゃぎながらカジノへと足を踏み入れた。
中は華やかだしいつもより賑やかだったから、少し驚いた。
今日は皆の顔つきが違う。
誰もが今日は自分が勝つと信じ込んで、周囲を敵視している。
俺はルーレットを、保泉はトランプカードゲームの方へと別れた。
ルーレットなら勝てそうな気がするし、今日はイケる気がしてならない。
早速20万円を赤の7番に賭けた。
今までの結果を見ると、赤が多く出ているから赤に賭けた。
周囲も黒ではなく赤に賭けている。
ルーレット上に玉がコロコロと転がりまわっているのを見つめる。
「来い、来い、赤の7!!」
周囲も俺と同じように、自分が掛けている番号などを叫んでいる。
これで当たれば一攫千金じゃないか!
次第に玉が転がるスピードも遅くなり、どこに入ってもおかしくない感じになってきた。
俺の賭けた場所までまだ離れている。
おいおい、頼むから入ってくれよ・・・!!
祈るようにしてルーレット上の玉を見つめる。
次の瞬間だった。
俺の賭けている赤の7番に入ろうとした。
「来た―――ッ!!」
これでかなり儲けたぞ!!
借金返済のことが頭をよぎったが、返済で全て使うのはもったいなさすぎる。
一体何に使おうか、こんなに大金があれば欲しいものも買えるし飲みに行くことだって出来る。
保泉に報告しようかと思い、動いた瞬間。
ルーレット上を転がっていた玉が、その一歩手前に入ってしまった。
そう、赤の7番の前に玉が入ったのだ。
ウソ・・・だろッ?!
こんなことってあるのかよ・・・!!
実際に起きているが、信じられず俺はだんだん怒りが込み上げてきた。
「ふざけんなよッ!!」
俺以外にもみんなして怒鳴り散らしている。
そりゃ、そうなるに決まっているよな!
納得いかねーよ!!
すると保泉がやってきて、その手には100万円を抱えていた。
ちょっと待て、マジであたったのか?!
俺は色々な感情が入り交ざって、うまく言葉が出てこなかった。
「海老原、俺100万円儲けたぞ!!
最後の金を賭け金にしたら儲けられたんだ!」
「俺はダメだ・・・あと20万円残ってるけど勝てないに決まってる。
この20万でヤケ酒でもするかな!!」
「俺がおごってやるから、お前もその20万使えよ!
もしかしたら、勝てるかもしれないじゃないか!な?」
保泉にそう言われて、何だか勝てそうな気がしてきた。
もう一度ルーレットへ戻り、20万を賭けて始めることにした。
周囲も今度こそは!と意気込んで、大金を賭けている。
俺が選んだのは赤の19番。
高い数よりも低い数の方が当たりが多いから低い方にしてみた。
保泉と一緒にルーレット上を転がる玉を眺める。
スピードよく転がってはねている玉を見ながら、俺は一生懸命に祈りを捧げた。
今度こそ勝たせてくれ・・・!!
すると、またいい線まで来た。
今度こそ来い、来てくれたらちゃんと借金返済するから!!
思ってもないことが浮かんでくる。
しかし、玉が入ったのは赤の56番だった。
「くそっ、なんなんだよ!!」
「海老原、怒るなって」
「お前は儲けたんだからいいじゃないか!
俺は40万がパーになったんだぞ!?」
思わず保泉にあたってしまった。
こんなことしたって何の意味もないのに、・・・情けない。
しかし、保泉は怒らず俺の肩をポンポンと叩いた。
慰めはよしてくれ・・・!
ますます惨めになるじゃないか!
最悪な気分のまま、俺は保泉と一緒に飲みに行くことにした。
そして、その晩ある夢を見た。
親父が生きているころの夢を。
ギャンブルをして、お袋を泣かしている嫌な夢だったから早く目を覚ましたかった。
だが、続きがあって母親が倒れてしまうのだ。
夢に出てくる自分は第三者で、幼い頃の自分の姿が見える。
倒れたお袋を見て幼い自分が駆け寄り泣いている。
幼い頃、俺はお母さん子でよく一緒に出掛けたりしていたことを思い出した。
高校に上がったころから、お袋との距離が大きくなっていった。
親父はギャンブル三昧で、家に帰ってこないことも多かった。
絶対親父みたいにはなりたくないと思っていたはずが、今では親父とまったく同じ。
その瞬間、目が覚めて時計を確認すると夜中の3時過ぎだった。
「嫌な夢だな・・・」
ギャンブルが悪いコトだと昔は思っていたのに、始めてみるとそうでもない。
だって勝てば大金が手に入るから。
夢を見て何が悪い?
夢を見たって別にいいじゃないか。
むしろ、どうして周囲はギャンブルに理解を示してくれないんだ?
こんなにも楽しくて夢のあることだと言うのに、なぜ現実ばかり見ている?
そんなもの見たって仕方がないじゃないか。
そんなことを考えながら、俺は天井を見つめた。
昔は家族の仲が良かったのに、今ではバラバラになってしまっている。
お袋と菜月は変わらず連絡を取り、仲がいいらしいが俺は・・・。
もう今は考えるのをよそう。
そんなことを考えながら、そのまま俺は深い眠りについた。