僕はどうしようもない落ちこぼれで、今では付き合っている友人も少ない。
結婚しているわけでもなく、正社員として働いているがただのサラリーマン。
付き合っている女性だって居ない。
その理由は僕がギャンブル好きで今現在借金をしているからなんだ。
だけど、最初から落ちこぼれだったわけでもなければ、ギャンブルが好きだったわけでもない。
キッカケは友人の誘いだったんだ。
“簡単に金儲けできるうまい話があるんだ”
その言葉に誘われて連れて行かれたのがパチンコで、僕は初めてだったから全くやり方が分からなくて友人から教えてもらいながら始めるようになったのだ。
最初は店内もうるさいしやり方も分からないし、何が楽しいんだろうなんて考えていたっけ。
だが、少しずつその環境にも慣れてきて、僕は偶然にも大当たりを出したんだ。
パチンコ台から溢れんばかりの銀色の玉が出てきて、店員を呼んでケースを受け取り順番に回収していった。
その時の快感が忘れられず、また大当たりが出せるんじゃないかってパチンコを始めたんだ。
今日こそは、そう思いながら週に何度もパチンコ屋へ通っては大損をして。
これがギャンブル好きになり、パチンコ依存症解決のサイトを頻繁に見るようになったキッカケ。
普通の人から見れば単純だと思うかもしれないが、この気持ちは大当たりを出した人間にしか分からないと思う。
そして、僕は今日もパチンコ屋へ足を運び朝から玉を打っている。
仕事の無い休日だからこそ楽しめるんだ。
家で寝ていたりテレビを見たりしているなんて、時間がもったいない。
「・・・はぁ」
今日もまた負けてしまい、いい加減イライラしてきてしまう。
どうしてあの時みたいに大当たりが出ないのか、僕には理解できなくてさらにイラつく。
もっとお金があれば大当たりが出せるかもしれない。
僕はそう考えて換金場所へと向かっていく。
その途中で大当たりを出している人を見かけ、僕はさらにやきもきした。
パチンコ台は当たりやすい台と当たりにくい台があると友人も話していたが、まさかこんなにはっきり差が出るなんてな・・・。
僕だって今はまだ大損ばかりしているが、今から当たりを出せるかもしれない。
ケースを受け取り、僕は自分が使っていたパチンコ台へと戻り打ち始める。
いくら売ってもいっこうに大当たりが出ないし、当たりさえ出る気配がない。
そのチャンスは何度かあるものの、まるで運に見放されているみたいだった。
「どうしていつも出ないんだよ・・・!!」
僕は頭にきてパチンコ台を思い切り叩き付けた。
僕は何も悪くない、この台が悪いから当たりが出ないんじゃないか?
全く、使えない台だな!
周囲の目が僕に集まり僕はその場にいるのが嫌になって、店を早足で後にする。
外に出れば休日だからか、楽しそうに歩いている人達が多い。
皆はいいよなぁ、幸せそうで・・・それに比べて僕はこのザマだ。
楽しそうにしている人間を見ると、無性にイライラしてくる。
財布を確認したら5千円札が一枚入っていた。
この金で競馬でも行って一儲けでもするか・・・そう思いながら競馬場へと向かっていく。
有名な競馬場ならなんだか当たりが出そうな感じがしていいな。
僕は早速馬券を購入し、勝ちそうな馬の番号を選んでいくがこれが一番楽しいんだよな。
馬券を手にして、そろそろ始まるレースを見に急いでいい席へと向かって歩いていく。
周囲はにぎわっているが、僕のようなギャンブル好きが集まっているから目つきが鋭く、放つ雰囲気も穏やかなものではない。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
レースが始まって大盛り上がりを見せているし、僕も盛り上がってそのレースを見守る。
僕が選んだ馬が勝つよう必死に祈り続けながら。
すると、僕の選んだ馬が追い抜いてきて2位に躍り出てきて僕は大声で叫びながら応援した。
「行けぇーっ!!そのまま1位を追い抜け!!」
誰よりも大きな声で叫び続け、レースを食い入るように見つめ続ける。
絶対勝てる、これなら勝てるぞ!そう思いながら見ていると、そのままその馬が2位で勝った。
やった!これで儲かったから、パチンコの大損なんて大したことない。
僕は換金所へ向かい金を受け取り、上機嫌になった。
これだからギャンブルはやめられないんだよな、この調子で今後ももっと儲けていくんだ。
もしかしたら、僕はギャンブルに向いているのかもしれない。
パチンコは今までずっと続けてきているが、今度から競馬も始めてみるか・・・こんなふうに儲けられるんだったらいいじゃないか。
僕は笑いながら儲けた金を見つめながら、そう思った。
翌日僕は仕事に向かい、いつも通りしっかりやるべきことをこなしていく。
与えられた仕事を完璧にこなして、上司からの信頼も少し厚くなってきて順調だった。
ただ、僕よりも仕事のできる同期がいること、それが嫌だった。
仕事も出来て上司からの信頼も厚く、彼女もいる彼が嫌いで仕方がなかった。
僕だって仕事が出来るのに、いつも彼と比べられることが多く僕はいつだって彼の上には立てないんだ。
「怖い表情して、どうかされたんですか?」
そんな僕に声をかけてきたのは、ある一人の女性だった。
事務職として働いている彼女は、いつも明るくて元気でみんなのムードメーカー。
僕には縁がない人物だと思っていたから、声をかけてきたのは意外だった。
そんなに怖い表情をしていたのだろうか・・・。
「いや、何でもないよ」
「何かありましたら、いつでも話して下さいね?」
そう言って彼女が去っていく。
一体どうして僕に声をかけてきたのか分からないが、気にしてくれていたのかもしれないな。
仕事を片付けていくと時間はあっという間に過ぎて、気がつけばもう夕方になっていた。
今夜は残業もないし、パチンコでも打ちに行くかな。
今日こそは当たりが出そうな気がするし、ダメだったら競馬に行けばいいだろう。
早く就業時間にならないか、そればかり考えて待ち遠しい気持ちに駆られた。
そして、就業時間になり僕は足早に退社してパチンコ屋へ向かっていった。
パチンコ屋は相変わらずにぎやかで、僕にとっては落ち着く場所になっていた。
このガヤガヤ音がまたいいし、楽しいんだよな・・・そう思いながら早速ケースを手にしてパチンコ台を探して回る。
この台なら大当たりが出そうだな・・・僕はそのパチンコ台につき、打ち始めていく。
今日こそは大当たりを狙ってみせる、前みたいな大当たりを出して儲けるんだ!
そんなことばかり思いながら打っていくが、やはり当たりが出るわけもなく、手持ちの玉が少なくなっていく。
「・・・何なんだよ!!」
頭にきて僕は再び大声で怒鳴って、台を叩き付ける。
どうして当たらない?一体何がいけないんだ?
いくら考えても分からなくてイライラしていたら、あっという間に手持ちがなくなってしまっていた。
僕はイライラしながら、さらにつぎ込んでいくが大当たりが出る気配が全くない。
気がつけば、僕の口からはため息ばかり漏れて、感情も高ぶったままだった。
そういえば、昨日はパチンコで大損をして競馬に行ったら儲けたんだよな?
・・・よし、今から競馬に行って儲けるか。
思い立ったら即行動、これが大事だからな、急いでいこう!
競馬場へ着き、馬券を買って昨日のように勝ちそうな馬を選んでいく。
選び終わり、レースの見える場所へと向かって足早に良き馬を確認して、勝ち目があると確信した。
しばらくしてレースが始まって、僕は身を乗り出すようにしてみた。
走り出しから好調で、そのまま行けば昨日みたいに2位で勝てる感じだったから僕は顔を緩めた。
「また儲けちゃうな~!」
周囲の人たちが納得いかなかったのか、新聞などを床に捨てて去っていく。
この優越感が何とも言えないんだよな、勝者だけが味わえるこの快感がいいんだ。
すると、再び人が集まり始めたことに気がついて、僕もレースに集中したが、とんでもないことが起きてしまった。
今まで2位をキープしていた馬が、途中で転倒してしまい最下位になってしまったのだ。
うそだろ・・・さっきまで2位だったじゃないか!!
その後、大穴とされていた馬が1位になり、僕の持っていた馬券はただのゴミになってしまった。
「くそっ!!なんでだよッ!!」
僕は怒鳴って馬券を床に投げ捨て、その場を後にした。
途中までは良かったのに・・・どうしてこうなるんだ!!
財布の中身を確認すると、もう空っぽになっていて軽くなっていた。
給料日までまだ日にちがあるから、ギャンブルが出来ない・・・それは大ごとだ。
まさか、給料日まで待つなんで出来ないから、何とかしなければいけない。
そんな時、僕の目にあるものがふと飛び込んできた。
それは金融機関の看板で、近くには無人取引のできるボックスが。
「そうか、ないなら借りればいいのか!」
ちょっとだけなら返済だって出来るし、何も問題ないはずだ。
それに大当たりを出して儲ければ、返済なんて簡単にできるじゃないか・・・僕にしては冴えてるな!
僕はすぐさま消費者金融の無人契約機へ飛び込んだ。
手続きはいたって簡単で初めてだというのに、何も難しい事は無かった。
僕がとりあえず借りたのは3万円。
次こそ勝てそうな気がする、いや絶対に勝つんだ!